『聖クロス女学院物語2 ひみつの鍵とティンカーベル』『聖クロス女学院物語3 花音のひみつとガジュマルの精霊』(南部くまこ)

念願の部室を手に入れた神秘倶楽部。しかしそこは荒れ果てた物置小屋でした。神秘倶楽部に物置小屋を片付けさせ、ついでに値のはるブツをバザーで売りさばかせようという学長の陰謀を、部長の花音は即座に見抜いてしまいます。ならば期待に応えようとバザーを成功させ、なんと20万を越える売り上げを達成してしまった神秘倶楽部でしたが、今度はせっかく手にした大金が消えるという事件に巻き込まれてしまいます。
花音はオカルト大好きであるがゆえに合理主義的思考にも長けており、探偵役として日常の謎をどんどん解いていきます。ということで、このシリーズはちょっとしたミステリとしても楽しめるようになっています。オカルトを毛嫌いする花音のライバル璃子(ツインドリルのツンデレ。CVは釘宮理恵に確定)も登場して、シリーズはますますにぎやかになってきました。3巻にして、神秘倶楽部は学校を飛び出します。神秘倶楽部の夏合宿という名目の沖縄旅行。偶然生徒会のお姉さま方とも沖縄で出会い、楽しい旅行になります。しかし、キジムナーが花音の残された目を狙っているという幻視を陽奈がして、ちょっと不穏な空気も流れます。
シリーズの既刊3巻を読んで感じるのは、いろいろな面で配慮が行き届いているということです。この世界には確かに不幸や悪意はあるのに、登場する少女たちは守られているという感じがします。それはもちろん、女子校をアジールとする吉屋信子以来のエス小説の伝統が受け継がれているものと理解すべきでしょう。さらにこのシリーズは、最新のポリティカル・コレクトネス問題にも気を配っているようにみえます。
たとえば3巻で、ある登場人物の親がふたりとも男性であることが明かされますが、主人公の陽奈は「うわーっ、世のなかには、いろんなおうちがあるんだなぁ!」という感想だけで軽く流してしまい、そこは一切問題にされることなくストーリーは進んでいきます。
3巻のストーリーは、文学寄りの児童文学の方法で描けば、障害のあるお友達にいかに接するかという読書感想文には書きやすいだけのおもしろみのない作品になってしまうおそれがあります。しかし、エンタメの手法を使うことで、抵抗なく読み流せるようになり、むしろPC的問題は軽やかにクリアされるというアクロバットがなされています。
障害ということで考えれば、むしろコミュニケーション障害の描き方に注目すべきかもしれません。3巻では璃子ツンデレが軽いコミュニケーションの困難であると捉えられています。みんなのあこがれのお姉さまである生徒会長の史織さまは、いとこの璃子を心配する一方で、別に友達は「できなければ、できないでもいいし」、「気が合わないのに、むりしていっしょにいるなら、ひとりでいるほうがずっとすがすがしくて有意義なこともある」という認識を披露します。ここで、友達を持たないという生き方も肯定され、コミュニケーションの困難という問題自体が消滅してしまいます。
そういう点を参照すると、3巻で明かされる匿名の文通制度デスティーノの起源の話も興味深くなってきます。デスティーノには、生徒間の軋轢を回避するために非常に合理的な(ある意味夢のない)設計がなされていることが明らかになりました。感情ではなくシステムで問題を解決してしまうという方法の明快さは、人間関係の悩みに救いを与えてくれます。
エンタメとしておもしろいのはもちろん、エンタメの手法を使うことで児童文学がPC的に進歩していく可能性を、このシリーズは見せてくれています。現在3巻で刊行が途絶していますが、ぜひ継続してもらいたいです。