聖クロス女学院物語(2) ひみつの鍵とティンカーベル (角川つばさ文庫)
- 作者: 南部くまこ,KeG
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2014/06/13
- メディア: 単行本
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花音はオカルト大好きであるがゆえに合理主義的思考にも長けており、探偵役として日常の謎をどんどん解いていきます。ということで、このシリーズはちょっとしたミステリとしても楽しめるようになっています。オカルトを毛嫌いする花音のライバル璃子(ツインドリルのツンデレ。CVは釘宮理恵に確定)も登場して、シリーズはますますにぎやかになってきました。
聖クロス女学院物語 (3) 花音のひみつとガジュマルの精霊 (角川つばさ文庫)
- 作者: 南部くまこ,KeG
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2014/10/10
- メディア: 単行本
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シリーズの既刊3巻を読んで感じるのは、いろいろな面で配慮が行き届いているということです。この世界には確かに不幸や悪意はあるのに、登場する少女たちは守られているという感じがします。それはもちろん、女子校をアジールとする吉屋信子以来のエス小説の伝統が受け継がれているものと理解すべきでしょう。さらにこのシリーズは、最新のポリティカル・コレクトネス問題にも気を配っているようにみえます。
たとえば3巻で、ある登場人物の親がふたりとも男性であることが明かされますが、主人公の陽奈は「うわーっ、世のなかには、いろんなおうちがあるんだなぁ!」という感想だけで軽く流してしまい、そこは一切問題にされることなくストーリーは進んでいきます。
3巻のストーリーは、文学寄りの児童文学の方法で描けば、障害のあるお友達にいかに接するかという読書感想文には書きやすいだけのおもしろみのない作品になってしまうおそれがあります。しかし、エンタメの手法を使うことで、抵抗なく読み流せるようになり、むしろPC的問題は軽やかにクリアされるというアクロバットがなされています。
障害ということで考えれば、むしろコミュニケーション障害の描き方に注目すべきかもしれません。3巻では璃子のツンデレが軽いコミュニケーションの困難であると捉えられています。みんなのあこがれのお姉さまである生徒会長の史織さまは、いとこの璃子を心配する一方で、別に友達は「できなければ、できないでもいいし」、「気が合わないのに、むりしていっしょにいるなら、ひとりでいるほうがずっとすがすがしくて有意義なこともある」という認識を披露します。ここで、友達を持たないという生き方も肯定され、コミュニケーションの困難という問題自体が消滅してしまいます。
そういう点を参照すると、3巻で明かされる匿名の文通制度デスティーノの起源の話も興味深くなってきます。デスティーノには、生徒間の軋轢を回避するために非常に合理的な(ある意味夢のない)設計がなされていることが明らかになりました。感情ではなくシステムで問題を解決してしまうという方法の明快さは、人間関係の悩みに救いを与えてくれます。
エンタメとしておもしろいのはもちろん、エンタメの手法を使うことで児童文学がPC的に進歩していく可能性を、このシリーズは見せてくれています。現在3巻で刊行が途絶していますが、ぜひ継続してもらいたいです。