『口のなかの小鳥たち』(サマンタ・シュウェブリン)

口のなかの小鳥たち (はじめて出逢う世界のおはなし―アルゼンチン編)

口のなかの小鳥たち (はじめて出逢う世界のおはなし―アルゼンチン編)

東宣出版の叢書「はじめて出逢う世界のおはなし」のアルゼンチン編。1978年生まれのアルゼンチンの作家サマンタ・シュウェブリンの短編集です。
はじめの短編「イルマン」からして、ドライブ中に立ち寄ったバーで、店主の小男から冷蔵庫の前で転がっている妻をどうにかしてほしいと頼まれた男が、わけのわからない暴力衝動に襲われて小男をいたぶるという、真っ黒な作品になっています。
取り返しのつかない事態を悪夢のように幻想的に描く作風を得意としているようで、なんらかの発表会に参加している子どもたちが蝶に変身してしまって、その事実を認めたくない親の苦しみを痛切に描いた「蝶」や、村じゅうの子どもたちが穴を掘る遊びに興じるようになり、やがてみんな穴の中に消えてしまう「地の底」といった作品が、強烈な印象を残します。
とりわけ印象に残るのが、表題作の「口のなかの小鳥たち」です。この作品では、「麻薬をやるよりはずっと健康」「十三歳で妊娠されるよりは楽に隠し通せそう」というレベルの逸脱行動を娘がするようになった父親のとまどいが描かれています。それがどのような逸脱行動かというと、タイトルにあるとおりです。直截的な場面のグロテスクさもさることながら、餌食となる生きた小鳥を靴箱の中に入れるという狂ったイメージも破壊力が高いです。
「大人も、子どもも楽しめる!」をコンセプトにしたレーベルで、このような暗黒南米幻想文学を出した東宣出版の心意気を称えたいです。