「まちんと」(松谷みよ子 文  司修 絵)

まちんと (絵本・平和のために(1))

まちんと (絵本・平和のために(1))

 トラウマ絵本として名高い一冊です。

すこし むかし
ちいさな子が
もうじき 三つになる子が
広島に すんでいて
昭和二十年八月六日の朝
げんしばくだんに
おうたげな

 「おうたげな」という民話調の語りが特徴的です。あの出来事が民話として語り継がれていることを発見した松谷みよ子の慧眼が光っています。
 もうひとつの特徴は、松谷みよ子司修が一致して理論でなく感覚に訴える表現を目指している点です。松谷みよ子は登場人物の心情などには全く目を向けず、ただ淡々と起こったことだけを記述しています。不純物がないために、読者は自分の中にわき起こる感情と向きあわざるを得なくなります。
 絵の方はページごとにメインとなる色彩が大胆に移り変わり、非常にダイナミックに展開していきます。青い空が原爆の黄色、赤に染まり、炎の赤、血の赤、やがて無彩色に染められる世界。すべての画面が圧倒的な迫力を持っていて、読者は恐怖や絶望など不快な感情のみかき立てられることになります。この不快な表現は、読者に対する暴力だと言っていいと思います。人類史上最悪の住民虐殺であるあの出来事を語り継ぐ上で、この本はもっとも適したスタイルを実現しました。