「ウソがいっぱい」(丘修三)

ウソがいっぱい

ウソがいっぱい

『ウソつきはドロボーのはじまり』
と、お母さんはよくいうけれど、ほんとうかなぁ。
それがほうんとうなら、ぼくはもうとっくにドロボーになっているはずだ。

 タイトル通り嘘をテーマとした物語です。いつもお母さんに嘘を付くことを怒られている小学5年生のリュウが、クラスで孤立している杉本京子やオカマのおじさんバブちゃんを見つめながら嘘について考えていくストーリーです。瞠目するのはその倫理性の高さです。嘘とどう向き合うかというテーマは、人生をどう生きるかという問題に直結します。自分をいつもしかっているお母さんがお父さんの大事なトロフィーを壊したことについて嘘を付いているという卑近な話からはじめながら、生きることの困難さについての非常に高度な問題提起にたどり着いています。
 杉本京子やハブちゃんの描き方は単純化されていますが、単純化されているからこそ彼らのような弱い立場に置かれたものの直面している厳しい現実をあぶり出すことに成功しています。最後の最後まで主人公と杉本京子が一言の言葉も交わすことなく終わる潔さがすごいです。常にマイノリティを見つめ続けた丘修三のひとつの到達点といえる作品だと思います。