「平成17年度国際子ども図書館児童文学連続講座講義録 日本児童文学の流れ」(国立国会図書館国際子ども図書館)

 国際子ども図書館が開催した図書館員向けの講座の講義録です。一般の書店では手に入りにくいですが、子ども図書館のサイトに行くとPDFで読むことができます。便利な時代になったものです。講師と演題は以下の通り。

子どもの文学の新周期―1945-1960(神宮輝夫)
十五年戦争期の絵本― My Choices(吉田新一
童話の系譜(宮川健郎)
「タブーの崩壊」とヤングアダルト文学(石井直人)
4人のジャパネスク・ネオ・ファンタジー女流作家たち
小野不由美を中心に(井辻朱美
エンターテインメントの変遷(佐藤宗子
日本児童文学の流れを知るために
―日本児童文学史(通史)の紹介(千代由利)
国際子ども図書館所蔵ちりめん本について(江口磨希)
児童書総合目録活用術(渡辺和重)

 気になった点をいくつかメモしておきます。
 神宮輝夫の講演は敗戦から60年までのユーモア小説等を読み直し、戦後児童文学の起点を「だれも知らない小さな国」「木かげの家の小人たち」が発表された1959年とする史観の見直しを提唱しています。
 石井直人はキャッチフレーズを考えるのがうまい人で、現代のYAをおもしろいキーワードで捉えています。現在YA文学が求められている理由として、YAが難解化してしまった現代文学の代用になっているという説明をしています。難解な現代文学に対して素朴なYAを「プレーンヨーグルト」であると表現しています。また、現代YAの関心事として「感情管理」と「幸福の約束」の二点を指摘しています。これについては本人も認めているように講演の中では説明しきれていないので、別の機会で詳しく語られるのを待ちたいです。
 井辻朱美は「十二国記」を中心に最近のファンタジーについて語っています。十二国記の世界設定は女性や年少者に三国志のようなパワーゲームに参加させるためのものだとの指摘は、うがった見方ながら説得力があります。さらに現代ファンタジーの特徴を二点挙げています。ひとつは主人公が別世界に行って帰ってくる「行きて帰りし物語」でなく、別世界に行ったまま終わってしまう「行ったきりファンタジー」が目立つということ。もうひとつは別世界にさらに第三世界が存在している作品が多いということです(その条件で一番有名なのはナルニアではなかろうか?)。ちなみに井辻朱美はこの講演で「十二国記」が図書館員に全然知られていないことを知り、たいへんなショックを受けたというオチがついています。