「コンビニたそがれ堂」(村山早紀)

 アニミズムと無常観と萌えと、文明の利器コンビニエンスストアが見事に融合された傑作短編集です。あとがきに「地上は人間を愛しているのじゃないかなあと思う」と記されていますが、けだし名言です。お稲荷様がコンビニエンスストアを開き、動物ばかりかテレビまでが魂を持ち、ラジオの電波が過去と未来をつなぐ。人間と人外の存在の奇跡の交歓が描かれているあたたかみに満ちた作品です。
 舞台になるコンビニたそがれ堂は、温かいおでんと作りたてのお稲荷さんのにおいがする空間です。大事な探し物はなんでも見つかる驚異の品揃えを誇っています。店員は銀髪金眼のイケメンだけどダメ絶対音感を持っているおにいさん(どう見てもお狐さま)。ちょっとだけこわそうだけどやさしそうなおにいさんです。
 最初のお話「コンビニたそがれ堂」は、転校してしまった女の子と不本意な別れ方をしてしまった少年雄太の物語です。雄太と少女美音の出会いは非常にベタでした。雨の中捨てられた猫を抱きしめている美音を雄太が見つけます。美音は猫アレルギーで、猫を抱きながら苦しそうな顔をしていました。ベタなシチュエーションでも猫アレルギーという要素をくわえるだけでおそろしく萌え度が上がります。
 さて、美音は転校する前に雄太にメモ帳をプレゼントしようとしたのですが、周囲にからかわれるのがいやで雄太は拒絶してしまいました。たそがれ堂に迷い込んだ雄太は店内で受け取らなかったメモ帳を手に入れます。するとメモ帳を受け取らなかった過去は改変され、雄太はメモ帳を受け取ったことになりメールで美音との交流が続いていることになってしまいます。この現象はゲームをたとえにするとわかりやすいでしょう。雄太はゲームを中断し、間違えた選択肢の直前のセーブデータからやり直したことになります。雄太は間違えた選択肢の結果の記憶も持っているので、彼の立ち位置はゲームの主人公でなくゲームのプレイヤーにあるといえます。しょっぱなからものすごい力業の魔法を見せてくれました。
 第三話「桜の声」の主人公は地方のラジオ局でアナウンサーをしているさくら子さん。友達が結婚していき、仕事にも行き詰まりを感じていたときに、彼女はたそがれ堂で携帯電話のストラップを買います。それからさくら子さんの周囲で不思議なことが起こるようになりました。彼女のラジオが時間をこえて過去や未来に届き、「ケツメイシノサクラ」なる曲がよかったと反応が返ってくるようになったのです。「ケツメイシノサクラ」というフレーズが面白いことに気づいたのはさすが作家の感性です。この事件がきっかけでさくら子さんは自分の仕事に対する姿勢を見つめ直します。日々の何気ない仕事に祈りがこめられているという発想に共感できました。
 第四話「あんず」は動物が美少女に変身して会いに来る(難病つき)というこれまたベタベタなお話ですが、命のはかなさとはかないがゆえのかがやきが感動的に描かれています。人間に変身して大好きなお兄ちゃんの元にやってきた猫のあんず。人間になった彼女が猫の目では見えなかった星をはじめて見て、「死んだお母さん猫の瞳のきらきら」のようだと思う場面は感涙ものです。