「首七つ」(ひろのみずえ)

首七つ

首七つ

 ひろのみずえのホラー短編集。理性よりも生理に訴える描写がいやらしく、ホラーとしてはなかなかのレベルに達しています。
 「早起きは三枚のせんべい」は、林のなかでおばあさんにもらったせんべいの正体を徐々に明かしていくのが悪趣味で気持ち悪くて最高です。ひぐらしの鳴き声が幻聴のように「ウソウソウソウソ」と聞こえてくる「河童」も感覚に訴えてきていい感じです。
 しかしベタな言い方になってしまいますが、この世に人間よりも怖いものはありません。最後に収められている「怖かったの」は人間の怖さを容赦なく描いている佳作です。怖い夢を見たと兄に泣きついてくる妹。その夢の内容がふるっています。昔話に出てくるような田舎が舞台で、妹は川から流れてきた無数の死体を発見し、それに石を投げて遊びました。死体は妹の住んでいるところの上の集落の人々で、飢饉で飢え死にし川に流れていました。妹は死体に対してこんな感想を持ちます。

 千佳はね、そのとき、なんとなくわかったんだ。
 川の上のほうに、ちがう村があって、ここに流れているのは、その村の人たちなんだなって。この人たちは、お腹をすかせて、しんじゃったんだなって。
 それからね、「千佳はこの人たちよりもえらいんだぞ」って、気持ちになった。
 千佳が夢の中でいたところは、いっぱいお米がとれる村。
 いっぱいつくって、いっぱいためてるから、ちょっと雨がふらなくなったって、食べるものがなくなったりしないの。
 だから、この人たちがしんじゃうのは、あたりまえで、千佳たちが生きているのも、あたりまえ。

 これは怖い。こういう無邪気な傲慢が世の差別を生み出しているのでしょう。妹は夢の中で起きあがった死体におどかされたことが怖かったと兄に訴えますが、兄は自分のシャツをつかんでいる妹の手をそっとどけます。お兄ちゃん怖かっただろうね。