「凜九郎①」(吉橋通夫)

凛九郎1 ─別れからのはじまり─ (YA! ENTERTAINMENT)

凛九郎1 ─別れからのはじまり─ (YA! ENTERTAINMENT)

 たぐいまれなる剣の才能を持ちながら親の無惨な死にざまを見てしまったトラウマから腰ぬけになってしまった少年凜九郎が、攘夷派の暗躍する幕末で運命に翻弄される物語です。腰ぬけのヒーロー像はもはやひねった設定とはいえませんが、児童文学界では歴史物に定評のある吉橋通夫がどう料理するのかは気になるところです。激動の時代で血なまぐさい出来事もありながら、凜九郎のキャラクターのためか作品世界はまったりゆったりしていて心地よいです。だじゃれを多用した軽妙な会話もいい味を出しています。
 凜九郎は剣術道場の内弟子として生活していましたが、師範代ともめ事を起こし道場を破門され、居場所を失ってしまいます。イギリス公使の用心棒の仕事を得ますが、それもすぐくびになってしまいます。この後凜九郎は全く予想のできない身の振り方をします。
 なんと彼は知り合って間もない八歳児のヒモとして暮らすことになります。
凜九郎は腰ぬけの上に稀代の女たらしだったのです。まったく吉橋通夫も扱いに困るヒーローをつくってくれたものです。凜九郎はヒモの身でありながらいかがわしい場所に出入りしておしろいのにおいをさせて帰ってきたりもします。この第一巻だけで三人もの女を泣かせているのだからおそろしい。きっと楽な死に方はできないでしょう。いや、非常に先行き不安で楽しみです。