- 作者: 谷山浩子
- 出版社/メーカー: 廣済堂出版
- 発売日: 1994/04/01
- メディア: 単行本
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初期作品とは思えないほどの完成度の高い短編が並んでいますが、中でも圧巻なのは「ガラストマト」です。
丘の上から見渡すと南半分が赤くて北半分が真っ白なふしぎな国に旅人が迷い込むお話です。旅人は最初南のほうに行きますが、そこの住民はみなごうつくばりで、彼は身ぐるみはがれて北に逃げ出します。北の住民は南とはうってかわって穏やかでしたが、どこか人間味に欠けています。それは北の住民に血が通っていないためでした。北の住民は血の通っている旅人を哀れんで、親切にも肉切り包丁を持って旅人の内臓をぬきとってくれようとします。そこへ南の住民が旅人を救出しにやってきました。旅人は南の住民の人間味に感じ入って泣き出してしまいます。
ここで終われば普通の寓話なのですが、この後の展開には呆然とさせられてしまいます。急に静かな雰囲気になり、南の住人は「だんな、ちょっくらつづきがあるからね。眠いだろうがもう少しだけ待ってくれるかね。もうじき幕は閉じる」と語ります。そして南の住人たちが仮面(それまで南の住人が仮面をかぶっていたという描写はない)を外すと、その下から北の住民の顔が現れました。その後さらに予想のつかない作品世界の全容が明かされます。
ここまで華麗にお話をぶちこわしておきながら、破綻を感じさせずに物語の幕を引く。こんな芸当は凡人にはできません。