「ふるさとは、夏」(芝田勝茂)

ふるさとは、夏 (福音館創作童話シリーズ)

ふるさとは、夏 (福音館創作童話シリーズ)

ふるさとは、夏

ふるさとは、夏

ふるさとは、夏 (福音館文庫 物語)

ふるさとは、夏 (福音館文庫 物語)

 1990年福音館書店刊。96年に加筆が施されたパロル舎版が出版されました。現在手に入れやすいのは、2004年の福音館文庫版ですが、こちらは福音館版の文庫化でパロル舎版の加筆は反映されていません。
 芝田勝茂による一風変わったミステリ作品です。小学6年生のみち夫は、夏休みを父親の郷里、北陸にある五尾村*1で過ごすことになります。彼は伯父夫婦やいとこに歓迎されますが、田舎の空気になじめず居心地の悪い日々を過ごしていました。折しも村は合併問題で揺れていました。合併反対派は村人の結束を深めようとバンモチという村の伝統行事を復活させます。みち夫もその場に招かれ、思わぬ運命に巻き込まれることになります。バンモチの会場となった家に白羽の矢が射られたのです。村の伝統では、白羽の矢が立った家の娘は神社ごもりをしなければならないことになっていました。みち夫は家の娘であるヒスイから介添え役に指名され、事件に関わることになってしまいます。
 この後物語は白羽の矢を射た犯人を探る展開になりますが、容疑者が全員神様だというのがぶっとんでいます。
 みち夫は村に来てからさまざまな土着の神様に出会うことになります。村を代表する神社の神様はアロハシャツにサングラスという出で立ちで、われわれの抱いている神様のイメージを見事にぶちこわしてくれます。他にも人間の持ち物を隠してしまうトリックスター的な神様ブンガブンガギャーや、村の氏神の座を狙うブタ猫ジンミョーなど、愉快な神様がたくさん登場します。どの神様も人間よりも人間くさくて魅力的です。こうした神々の扱いによって、この作品は日本の土着的アニミズムにひとつの見識を示したファンタジーになっています。
 ただし、この作品の本筋はミステリです。謎解きの場面で村中の神々が一堂に会するのが壮観です。そして動機がふるっているし、真相はアレだし……。とてもネタはばらせません。この作品は児童書ミステリの中で屈指の問題作といえそうです。

*1:モデルは石川県鹿島郡余喜村(現羽咋市