光文社古典新訳文庫礼賛

 光文社の古典新訳文庫がこの9月で一周年を迎えました。児童文学に異様に力を入れているこの文庫の一年を振り返ります。
 まずは創刊から。2006年9月の創刊ラインアップは以下の8点でした。

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)

マダム・エドワルダ/目玉の話 (光文社古典新訳文庫)

マダム・エドワルダ/目玉の話 (光文社古典新訳文庫)

初恋 (光文社古典新訳文庫)

初恋 (光文社古典新訳文庫)

リア王 (光文社古典新訳文庫)

リア王 (光文社古典新訳文庫)

飛ぶ教室 (光文社古典新訳文庫)

飛ぶ教室 (光文社古典新訳文庫)

ちいさな王子 (光文社古典新訳文庫)

ちいさな王子 (光文社古典新訳文庫)

猫とともに去りぬ (光文社古典新訳文庫)

猫とともに去りぬ (光文社古典新訳文庫)

永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編 (光文社古典新訳文庫)

永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編 (光文社古典新訳文庫)

 この8人が同じ舞台に立っているというだけで充分おもしろいのですが*1、児童文学作品の多さにも驚かされます。このうち児童文学と呼べそうなのは「飛ぶ教室」「ちいさな王子」「猫とともに去りぬ」の3作です。創刊ラインアップの37,5パーセントが児童文学というものすごい力の入れようです。なかでもひときわ目を引くのがジャンニ・ロダーリの「猫とともに去りぬ」です。ロダーリはイタリアを代表する児童文学作家ですが、ケストナーやテグジュペリに比べると日本での知名度はいまいちです。そんなロダーリの本邦初訳作品を創刊ラインアップに加えたところに光文社の心意気を感じました。ちなみに創刊ラインアップで本邦初訳なのは、この「猫とともに去りぬ」だけでした。
 2007年1月にはキプリングの「プークが丘の妖精パック」が出ました。キプリングは誰もが知っている有名作家ですが、「プークが丘の妖精パック」はある程度イギリスの歴史や文化を知っていないと理解しにくい作品なので、いままで邦訳はありませんでした。児童向けに出すには難しい作品なら最初から一般向けの文庫として出版すればいい。この発想の転換をなしえたことには大きな意義があります。これからもまだ日本に紹介されていない作品をたくさん発掘してもらいたいです。
プークが丘の妖精パック (光文社古典新訳文庫)

プークが丘の妖精パック (光文社古典新訳文庫)

 2007年4月の「箱舟の航海日誌」にも注目する必要があります。これは以前あかね書房から出ていましたが、「飛ぶ教室」や「ちいさな王子」のような超有名作品というわけではありません。この作品の発掘によって、古典新訳文庫は一味違うということがますます印象づけられました。
箱舟の航海日誌 (光文社古典新訳文庫)

箱舟の航海日誌 (光文社古典新訳文庫)

 2007年5月の「秘密の花園」(バーネット)が現時点で最新の児童文学作品です。2007年9月現在で40冊刊行されているうちの6冊、15パーセントが児童文学作品になっています。さて、これから光文社はどんな児童文学作品を発掘してくれるのか、2年目も古典新訳文庫から目が離せません。
 あー、でもその前に積んである「カラマーゾフ」をさっさと片づけなければ。

*1:なにしろ「星の王子さま」と「眼球譚」が仲良く並んでいるのだから大笑いです。