]「おはなしのピースウォーク 傘の舞った日」(日本児童文学者協会/編)

傘の舞った日 (おはなしのピースウォーク)

傘の舞った日 (おはなしのピースウォーク)

 日本児童文学者協会創立60周年記念出版「おはなしのピースウォーク」の第四弾です。注目すべきはリアリズム短編の名手皿海達哉の「一寸の虫にも」でしょう。彼の作品はほとんど日常の些末な出来事を綴ったものですが、それは小さい世界にとどまらず確実に社会に接続しています。今回はイデオロギー色の強い企画なので、彼の特性がどう生かされるのか期待していました。そこを彼は政治問題を日常に引きずりおろすというかたちで処理してみせました。
 主人公のみさきのクラスには平和カレンダーが展示されていましたが、それが校長に勝手にはがされるという事件が起きました。みさきの父親はこの出来事について教育委員会に抗議しました。それを聞き及んだみさきの友達由香の父親が、わざわざみさきの家にやってきて、父親に論争をふっかけたのです。彼は核兵器を礼賛し、9条を罵倒し、好き勝手なことを言い散らして去っていきます。みさきの父親は分が悪く、しまいにはみさきの兄が由香の父親の考えに共感してしまいます。これを大仰な言葉で語れば、藤田のぼるの解説にある「非戦を主張する側が非論理的、保守的で、平和を守るためには時には軍事力も必要という考え方の方が、より論理的で新鮮に映る、というような逆転現象」ということになるのでしょう。しかし、問題の根はこの作品で描かれているように、身近な人間関係における立場の強弱から発生しているという面もあります。