「世にも不幸なできごと12 終わりから二番めの危機」(レモニー・スニケット)

終わりから二番めの危機 (世にも不幸なできごと 12)

終わりから二番めの危機 (世にも不幸なできごと 12)

あなたたちはもう子供じゃないのよ、ボードレール姉弟妹。絶望した、ややこしい世界に立ちむかう準備のできたボランティアなの。(p43)

 このシリーズはなぜこんなにもおもしろいのか。ここにきてやっとその秘密がわかりました。この物語の主人公が本を読む子供であること。この物語が読書を愛する人々のために書かれていること。このふたつが「世にも不幸な出来事」シリーズのおもしろさの秘密です。
 振り返ってみると、ボードレール姉弟妹の行くところには必ず図書館があり、彼らの傍らにはいつも本がありました。法律の本しかなかったり爬虫類の本しかなかったり菌類の本しかなかったり風変わりな図書館ばかりでしたが、ピンチの時は本が与えてくれる知識が必ず三姉弟妹の助けになりました。
 そんな作者の図書館に対する偏愛の集大成ともいえるのが、終わりから二番めの舞台「ホテル大団円」です。「ホテル大団円」の部屋はデューイ十進分類法で組織されています。2階は宗教のフロアで296号室には気むずかしいラビが宿泊している、8階は文学のフロアで831号室ではドイツの詩人たちが集会をしているといった具合。要するに図書館の分類と同じように整理されているわけです。NDCではないので日本人にはいまいちわかりにくいのですが、作者の意図するところは伝わってきます。
 三姉弟妹はここでコンシェルジュとして働きつつ、諜報活動をすることになります。そして、さっそく呼び出された部屋が材木関係の674号室と教育関係の371号室。この単語を聞いただけで今までつきあってきた読者はいやな予感を持たされる仕組みになっています。
 しかしまあ、最後から二番めだというのにまだ不幸は続きますか。この巻の舞台が「ホテル大団円」だと判明したときは少しは状況は好転するのではないかと期待したものですが、作者は「大団円」は「終わりから二番め」の出来事にすぎないと突き放し、またも三姉弟妹にひどい試練を与えました。作者はどこまでも意地悪です。