「風の陰陽師2 ねむり姫」(三田村信行)

風の陰陽師〈2〉ねむり姫

風の陰陽師〈2〉ねむり姫

 三田村信行による安倍晴明伝第二巻。晴明の故郷の信田の森で統領の跡目争いが起こりました。そのため晴明は里帰りしていましたが、その間に中納言の娘咲耶子が藤原黒主の手に落ちてしまいます。黒主の術で眠り続ける咲耶子を目覚めさせるため夢魔の世界に旅立つ晴明。しかしそこにはライバルの蘆屋道満が待ちかまえていました。はたして晴明は咲耶子を救うことが出来るのか……。
 一巻で顔見せしたキャラクターがそれぞれ生き生きと動き出し、どんどん物語が盛り上がってきました。特に輝いていたのは蘆屋道満。この作品での蘆屋道満は、黒幕の藤原黒主にいいように利用されるかわいそうなキャラになっていて、道化っぷりで笑わせてくれます。彼は読者に愛される悪役になりそうです。
 三田村信行がこのところ時代ものをたくさん書いていることは知っていましたが、失礼ながら余技でやっているものだとばかり思っていました。ところが実際読んでみるととんでもない。時間を忘れて没頭できるくらいおもしろかったです。三田村信行というと「おとうさんがいっぱい」をはじめとする初期の不条理ホラーのインパクトがあまりにも強すぎたため、現在でもそのイメージで語られることが少なくありません。しかしこちらの路線のレベルも非常に高いので、通俗娯楽読み物作家としての評価ももっと高まってもいいと思います。