「児童文学の境界へ 梨木香歩の世界」(藤本英二)

児童文学の境界へ―梨木香歩の世界 (日本児童文化史叢書 42)

児童文学の境界へ―梨木香歩の世界 (日本児童文化史叢書 42)

梨木香歩は児童文学の世界で、既成の概念や物語の定型に寄りかかることなく、こころや魂をめぐる新しい物語を書き続けてきた」という結論には同意しかねます。少なくとも初期の梨木香歩は、「裏庭」に顕著なように、ユングをはじめとする精神分析的な思想の定型に忠実でした。
定型に寄りかかるのは必ずしも悪いことではありません。わたしは個人的には精神分析学の知見を文学に取り入れることを好ましく思っていません。が、客観的に見れば梨木香歩は、むしろユング思想の定型を意図的に巧みに物語に取り込んだことで評価されるべきだと思っています。