「水曜日のクルト」(大井三重子)

新版 水曜日のクルト (偕成社文庫)

新版 水曜日のクルト (偕成社文庫)

時々、こんな空想をすることがあります。もし、「猫は知っていた」が書かれなかったとしたら、大井三重子がミステリ作家仁木悦子として開花することなく、ずっと童話を書き続けていたとしたら、今の児童文学の風景はどうなっていただろうかと。きっと童話がもっと盛況になっていたはずです。
大井三重子の唯一の童話集である「水曜日のクルト」が出版されたのは、1961年でした。児童文学が長編化し、ややもすると童話が劣ったものと見なされていた時代です。そんな時代に生まれながら、いまだに「水曜日のクルト」は熱心なファンに愛され、伝説として語り継がれています。それだけの力を持つ作家だったのですから、たった一冊の童話集しかのこさなかったことが惜しまれてなりません。
今年新装版が出た「水曜日のクルト」は、そんな童話集です。まだ読んでいない方は、ぜひ一度手に取ってみてください。