- 作者: 一柳廣孝,吉田司雄
- 出版社/メーカー: 青弓社
- 発売日: 2010/08
- メディア: 単行本
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継承と解放、そして残された課題――一九八〇年代以降児童文学の長編ファンタジーに見る「闇」(佐藤宗子)
現代児童文学の起点とされる1959年からの児童文学ファンタジーの状況を、「闇」をテーマに概観しています。「闇」をヨコの「闇」(社会や共同体)、タテの「闇」(時間・歴史)、内なる「闇」(内面)の三つに分類し整理しているので、論点が非常にわかりやすくなってます。
興味深いのは最後の問題提起。最近の「東アジア」を思わせる地域が舞台に設定され、国際関係の緊張が物語の主軸となっているファンタジー作品の台頭から、「闇」に対する関心の変化を指摘しています。
つまりここでは、かつて上野瞭が一貫して追及し続けて、また芝田勝茂が人々の眼をそらさせる巧妙さを問題にした「国家」そのものがはらむ「闇」はもはや取り上げられない。「国家」はすでに存在するものであり、むしろ複数の「国家」が存在する国際関係こそが、対処すべき問題として捉えられている。(中略)
原理や根本的な存在意義を突き詰めるのではなく、現在の輻輳した状況をいったん受け入れたうえで、いかに調整を図って共存していけるのかを追求すること、それが二十一世紀の現在を生きる読者に向けての役割なのだろう。白日の下にさらされた構図でのファンタジーともとれるし、あるいは「関係性」のなかにこそ、「闇」が存在するという理解をすべきなのだろうか。(p66)
以下にこの論文が取り上げている主な作品をメモしておきます。