その他今月読んだ児童書

ダンゴムシ だんごろう (おはなしのくに)

ダンゴムシ だんごろう (おはなしのくに)

「ミツのようにあまいくされおちばが、山のようにつもっている」というダンゴムシ天国を探すため旅をしているダンゴムシのだんごろうが、旅先で出会ったさまざまな虫の手助けをする話。足や目玉がたくさんある生き物が密集しているさまを気持ち悪くかわいく描いている山村浩二のイラストがおもしろいです。「ぶたのぶたじろうさん」12巻。ぶたじろうさんとヤギのおばさんとクマの命知らず3人組が、あいもかわらず危険な冒険に出かけます。第1話の「まっくらやみ」では、獲物をまっくらな迷路に引き込んでおきながら、迷路の分岐には順路の矢印を書いておいてくれているという、たいへん親切な魔物と戦います。この迷路の脱出方法は、ぶたじろうさんとクマがかわいそうで笑えました。
カッチン (Green Books)

カッチン (Green Books)

1959年、東京タワーができたばかりの時代の神戸を舞台に、「さよならだけが人生だ」という人生の真理を描ききった作品です。船で生活する『赤毛のアン』の本を大切にしている女の子も、在日朝鮮人であることを隠していた親友も、子どもに親切だったシスターボーイのお姉さんも、みんな主人公のカッチンのもとから去っていきます。しかし、去っていった人々は必ず大切なものを残していってくれます。しみじみと心に残る傑作でした。
あまねく神竜住まう国 (児童書)

あまねく神竜住まう国 (児童書)

『薄紅天女』の姉妹編となる荻原新作。糸世さんが怖くてもう。
むこうがわの友だち (ノベルズ・エクスプレス)

むこうがわの友だち (ノベルズ・エクスプレス)

ポプラズッコケ文学新人賞受賞以来、3作の「むこうがわ」シリーズで、小浜ユリは胸くそ悪い話が得意な作家としての地位をしっかりと確立したようです(これが選考委員の那須正幹先生の意図なのか?)。『むこうがわの友だち』なんて、タイトルの時点でいやな予感しかしませんね。イマジナリーな友だちがあんなことになったり、自分のドッペルゲンガーがあれしたりと、気分が落ち込む話ばかり。ぜひこの路線でがんばってもらいたいです。
言葉屋 言箱と言珠のひみつ (朝日小学生新聞の人気連載小説)

言葉屋 言箱と言珠のひみつ (朝日小学生新聞の人気連載小説)

教室でのいざこざを文化人類学のように俯瞰して眺める視点を提供しているのが、この作品の成果です。「しぃちゃんの口角は、まるで太陽に向かってのびていくようにぐんと上がる」というような独特のおおげさな比喩表現が多用されているのも楽しいです。ただ、若い作家なのに自虐現代観が鼻につくという欠点があるのは残念です。講談社文芸文庫少年倶楽部短篇選第2弾。吉川英治の「武田菱誉れの初陣」で始まり、サトウハチロー「名優のなさけ」、金子光晴「名剣旭丸」、大佛次郎鞍馬天狗」など、理屈抜きで楽しめる偉人伝・冒険小説・人情噺・滑稽譚のたぐいが並んでいます。特におもしろかったのが、国語教科書でもおなじみの椋鳩十「大造爺さんと雁」。あらためて読んでみると、これだけの短い話で状況を二転三転させ、人間と動物の知恵比べの緊迫感や仇敵に向ける敬意の気高さを読者に感じ入らせる技術と豪腕に敬服させられてしまいます。京極夏彦の妖怪えほん」が一挙に3作刊行。どれも恐怖をめぐる物語です。そのなかで、おびえる子どもの前に現れるただとうふを見せるだけの妖怪〈とうふこぞう〉の意味不明さが、おだやかな救いとなっています。しかし、その意味不明さを突き詰めて考えると、人生の無意味さに思い至ってしまうので、これがいちばん怖い話ともとれます。