『踊る光』(トンケ・ドラフト)

踊る光

踊る光

オランダを代表する児童文学作家トンケ・ドラフトの中短編集。おとぎ話の世界を少しひねって、ウィットに富んだ風刺やしっとりした人情を描いています。これぞ匠の技。読後は満足感に浸れることを保証できる1冊です。
表題作「踊る光」は、灯台守の夫婦の物語。夫は妻と一緒に過ごすために船乗りをやめて灯台守になったのに、妻は一晩中夫を奪う灯台を憎んでおり、夫婦の気持ちはすれ違っています。妻は夫とダンスをしたがっていますが、夫は練習に乗り気ではありません。そこに、ウミアシと名乗る不思議な若者が現れ、夫の助手兼ダンスの先生になります。
やがて成就されるダンスシーンの美しさは圧巻です。人生の重みをしみじみと感じさせる感動作になっています。
一方で、おとぎ話を悪役や脇役の視点から眺めたような、皮肉な作品もいくつか収録されています。そのなかでもかわいそうなのが、「十三番目の妖精」という作品。いばら姫の誕生祝いに招待されなかったことを恨んで呪いをかけた妖精が主人公となる話です。この妖精、途中で後悔して、物語がハッピーエンドになるようにバラの生け垣を作って姫を守ったり、よい王子さまを探して連行してきたりと、すべてお膳立てをととのえます。それなのにオチが……。まったく報われないマレフィセント。悪人になりきれないやつが善行をしても無駄だという、絶望的な話になっています。人生なんてこんなものだと、ため息をつくことしかできません。