その他今月読んだ児童書

アポリア あしたの風 (単行本図書)

アポリア あしたの風 (単行本図書)

近未来の東京で大震災が起こる話。あまりに生々しい話なので震災の記憶が鮮明な人は読まない方がいいという警告を出さざるをえないくらい、強度を持った作品になっています。
ぐるぐるの図書室 (文学の扉)

ぐるぐるの図書室 (文学の扉)

2006年デビューの児童文学作家による競作アンソロジー
ななこ姉ちゃん (ティーンズ文学館)

ななこ姉ちゃん (ティーンズ文学館)

第23回小川未明文学賞大賞受賞。ひとり親家庭のふたりの少年は、同じく厳しい家庭環境に生きる6歳年上のななこ姉ちゃんによく遊んでもらっていました。ななこ姉ちゃんは、就職のために町を離れますが、祭りに参加するために3年ぶりに戻ってきます。しかし、泊まるところもなく町の大人たちからは厄介者扱いされて、苦労します。弱い者同士の連帯、淡い初恋がしっとりと描かれていて、読み心地は悪くはありません。しかし、そこがこの作品の欠点でもあります。
この作品は、過去の貧困をノスタルジー消費できる年配の方(著者は1931年生まれで、あとがきで自身の経験を元に作品を書いたと述べている)向けのエンターテインメントでしかありません。厳しい格差社会を生きる現代の子どもに届けるには、あまりに甘い感傷が入りすぎています。同時刊行されたこの2冊を続けて読むと、いろいろな悩みを抱えた女子も、男子からすればみなただの暴君でしかないというつらい現実がみえてきます。6巻でやむにやまれずついてしまった嘘を笑い猫に糾弾されて怖い目にあった女子たちが、7巻では無実の罪で学級裁判にかけられた男子に残酷な刑罰を求刑する立場にまわってしまうのです。
越水利江子の夜店シリーズが定着してきたのは、原点回帰という感じで嬉しいです。
大人気の「失恋妖怪ユーレミ」は、失恋した双子のために、男子の別の女子への恋するハートを食べてなかったことにしようと提案します。男子のハートはまずいのに食べてやろうという献身をみせるのに、結局断られて「しょうがないから、片思いが深刻化して、もっとこじれちゃってる人のところに行こうかなあ。ふつうに失恋した女子のハートが一番おいしいんだけどなあ……」と去っていくユーレミが哀れで笑えます。