『あらしの白ばと 悪魔の家の巻』(西條八十)

少女をいじめる悪人は、少女の声で、ほろぼすということをモットーにしている白ばとグループ――その三人の中でも、いちばん腕力がすぐれ、度胸があって、「おとめべんけい」とあだ名されているのは吉田武子である。
(p75)

http://d.hatena.ne.jp/seirindou_syobou/20161119/1479521142
西條八十のハチャメチャ冒険少女小説「あらしの白ばと」、芦辺拓の編集で第2部もめでたく刊行されました。あとがきによると、表記の不統一がはなはだしく、雑誌掲載時の回数の表示さえ信用できないというのんびりした時代の産物だったようで、編者の苦労が偲ばれます。
第2部で運悪く白ばとグループと敵対することになるのは、理学博士で格闘技の達人でもある怪紳士向崎有人と、外国から引き上げてきた赤ひげの怪人椎名魔樹。この悪党たちに利用されている父親を持つ茉莉子さんというお嬢様が、白ばとグループの吉田武子さんに助けを求めてきます。茉莉子さんの父親も犯罪に関わっているため、おおっぴらに警察を頼ることができなかったので、武子さんは単身で怪人の根城である鎌倉の三角屋敷に殴り込みをかけます。
この三角屋敷が、まさに〈悪魔の家〉としか形容できないようなすさまじい屋敷でした。凶暴な猛獣が徘徊し、おそろしいトラップが仕込まれた殺人階段があり、人体を完全に溶かしてしまう薬品風呂があり、とても生きて帰れそうにありません。しかし武子さんは全然ひるまず、大奮闘します。
屋敷の外から向崎有人の悪事の様子を盗み見た武子さんは、怒りを爆発させて後先考えずに拳銃をぶっぱなしてしまい、ピンチに陥ります。しかし、「もうぶっぱなした以上は、しかたがない」と開き直ります。この、「ぶっぱなした以上は、しかたがない」という言葉は、この物語の駆動力の象徴のようです。武子さんは敵の手に落ちても、「どうせ殺されるのだったら、ここにいて、殺されるよりも、いちどこのふしぎな三角屋敷を、残らずたんけんして死にたい」と行動を起こします。武子さんのいきあたりばったりの行動が自分も悪党たちも窮地に追い込んでいって、物語がどんどん盛り上がっていきます。武子さんだけでなく、作者の西條八十もいきあたりばったりなのではないかという疑いも持たれますが、それで話がおもしろくなるのなら全然問題ありません。
向こう見ずな豪胆さと怪力を武器に、「おとめべんけい」が繰り広げる荒唐無稽な大活躍には、ただただおどろきあきれるばかりです。いちばんの見せ場は、玉川重機の口絵でもいきなり衝撃を与えてくれる、ゴリラとのバトルシーンです。武子さん、素手でゴリラを締め上げています。それも片手で。
ただし、「おとめべんけい」の「べんけい」要素にばかり注目していると、武子さんの魅力の半分しか楽しめません。武子さんと依頼人の茉莉子さんの百合描写が「おとめ」全開で、ここも第2部の大きなみどころになっています。