『あしたのあさは星の上』(石森章太郎)

あしたのあさは星の上 (ele-king books)

あしたのあさは星の上 (ele-king books)

1967年に盛光社から刊行されたSF童話が復刊されました。著者については説明の必要はないでしょう。まんが界のレジェンドによる重厚な作品です。
アメリカのナントカ州カントカ町に暮らす〈白んぼう〉のぼうやが〈黒んぼう〉のチョコレートじいやからお話を聞かされるという、アメリカ南部ホラ話風に物語は進められます。
いばりくさった〈白んぼう〉のだんなが帽子型の宇宙人に自慢の金髪を食われる話とか、宇宙人のバッチイ落とし物をめぐってアメリカとソビエトのあいだに衝突が起こるとか、アホなホラの中に深刻な社会問題が混入されています。
第2話の「よるの色ひるの色」でじいやは、この世界は子どもの神さまが気まぐれでこしらえたもので、星屑をこねて地球をつくり天の川の水をスプーンでちょっとすくって水を入れたのだという壮大なホラを語ります。そして、七日目に飽きてしまった神さまが適当にはけで色塗りをしたから、多様な肌の人間が生まれたのだとします。話はそれだけでは終わらず、〈黒んぼう〉の肌がよるの色になった理由を勇壮な神話に仕立て上げます。じいやは、創世神話をでっち上げることで差別される側の誇りをうたいあげているのです。
終盤は、太陽が爆発して地球が滅亡するという、破滅テーマのSFになります。パニックに陥った人類は、凄惨な殺しあいをしたりと、醜い姿をさらします。ここで、デフォルメされたイラストが力を発揮します。単純な線が迫力と緊迫感をもたらし、人間の醜悪さを強調しています。一方で、抽象的な虹が、多様性への希望を示しています。
差別や戦争への怒りがストレートに表出されています。残念ながら、そうした怒りは半世紀たった現在でも、意味を失っていません。低学年向けでこうしたテーマを扱っている作品は現在ではあまりないので、多くの子どもの読者を獲得してもらいたいです。