『地底大陸』(蘭郁二郎)

地底大陸 (レトロ図書館)

地底大陸 (レトロ図書館)

夭折の天才作家蘭郁二郎のジュヴナイルSF『地底大陸』*1が、河出書房新社から復刊。
女性と見まごうような美少年雪彦は、大科学者寺田博士の助手として大陸探検隊に同行し、蒙古の奥地を探険していました。鉱脈を探していた一行は、思いがけず広大な地下国に迷いこみます。ところが、R国の秘密結社ゲーウー団の男装の少女指揮官アスリーナも潜入していて、地下国で騒動を引き起こします。
超科学力を持つユートピア探訪物語として魅力的です。地下国は人工太陽や人工雨で気象をコントロールしていて、空気鉄道や電磁鉄道といった交通網も発達、人造人間までいるという夢のような世界でした。いま読んでもこれだけわくわくするのに、当時の少年少女たちはどれほど胸を躍らせたことでしょう。
地下国がインカ帝国の末裔で、インカが侵略されたとき偶然流れ着いた日本の武士に助けられたので日本人の血も流れているというような大日本帝国万歳要素は、時局を反映しています。となると、地下国は日本の探検隊にとっては仲間ですが、R国のアスリーナにとっては敵国になります。こうなるとむしろ、少数精鋭の部下とともに超科学力を持つ敵国でその技術を乗っ取って祖国に貢献しようとするアスリーナの冒険心と愛国心が輝いてきます。人間タンクを皮切りに地底の超兵器を我がものにして暴れ回るアスリーナの勇ましいこと。この作品、すごくおもしろいんだけど、敵側の魅力に主人公側が釣り合っていないのがちょっとした瑕疵になっています。

*1:初出は『小学六年生』1938年4月号~1939年3月号