『彼女が生きてる世界線!3 失われた生存ルートを求めて』(中田永一)

人気作家の中田永一による児童文庫シリーズが全3巻で完結。ハルは原作通り白血病で入院してしまいます。アクトの頼みの綱は、ハルの母親が写っている家族の写真。その謎を解くため、アクトが奔走します。
という余命ものとしての本筋はしっかりと盛り上げつつ、中田永一はギャグ要素も絡めて抜群のリーダビリティで物語を進行させます。アクトに恨みを持っている女子があさっての方向に闇堕ちしたり、アクトの取り巻きのお坊ちゃまお嬢様がコメディリリーフとして活躍してくれたり。2巻ではアクトがサラリーマン文体のメッセージを送るというギャグが光っていましたが、3巻ではお嬢様の桜小路が「ですわ」口調+いにしえの顔文字のメッセージで笑わせてくれました。桜小路一人称のパートがなければ、この子も本当は実年齢3~40代くらいのオタクの転生者なのではと疑いたくなってしまいます。
アクトの旅に勝手についてきた取り巻きふたりが金持ちの旅と庶民の旅のギャップに驚くというのが、3巻のギャグパートの中心になります。でもそこは、『きみある』作中にも存在する格差を考えるとあまり笑えなくなります。アクトがサラリーマンの転生者であるという設定が、そこをうまくバランス調整しています。
転生設定をもっともうまく利用していると感じたのは、転生者の大人が児童文学の主役を務めるとぬけぬけと大人になることを言祝げるという点です。手練れの乙……中田永一が書いているので娯楽読み物としておもしろいのは当然、児童文学としてもユニークな切り口をみせてくれた得がたいシリーズでした。