『オランジェット・ダイアリー』(黒川裕子)

中学三年生になった樹々は、家庭や学校からの早く進路を決めろ圧を強く感じています。樹々はみかんの本場愛媛県のみかん農家のたったひとりの子どもという立場で、祖父は樹々に後を継がせようとしています。そのため学校の三者面談が娘・両親・祖父・先生の地獄の五者面談になったりして、樹々の心労は絶えません。そんな樹々のいちばんの友人は、ダンスに打ちこむリク。ただしリクは母の故郷のガーナに行ってヤギ渋滞に飲まれたりしているため、直接会うことができません。リクもリクで、樹々はなかなか言えない悩みがあって……。
絶対にみかん継がせる派の祖父も、絶対に娘をみかんに染めさせない派の両親も、自分の一方的な思いを子どもに押しつけているという意味では同類です。それをはねのける樹々の言葉の小気味よさが、黒川裕子らしいです。「おじいちゃん。それ以上ひとことでもしゃべったら、2Lサイズのみかん口に詰めこんじゃるけん」という啖呵の切り方とか、惚れ惚れしてしまいます。
樹々とリクの関係も微妙です。ガーナから愛媛県に来たばかりのころのリクは、引っ込み思案な感じの少年でした。樹々はリクのダンスの才能を見出し、バレエの仲間ができることを期待して、自分の通っているバレエ教室に誘います。とろこがリクの上達は想定以上で、自分が化け物を生み出してしまったことを知った樹々は、バレエ教室から去りました。それでも樹々にとってのリクは、輝かしい存在のままです。
物語の方向は終盤の章タイトルにあるとおりです。樹々やリクがいろんなものをコネクトして未来を切り開く展開は、優等生的*1ながらさわやかでよい読み味でした。

*1:『魔女見習いをさがして』と『オトナプリキュア』、女児アニメの大人編の2作でフェアトレードが扱われていて、これは現在よい子の行き着く発想の類型になっているようです。