『トクベツキューカ、はじめました!』(清水晴木)

1年に1回だけ、大人に理由を告げずに好きな日に休んでよいという規則のある千葉県の小学校を舞台にした連作短編。
第1話の主人公の凛は、雪の日に寒いのがイヤだからというゆるい理由で特別休暇を取ります。こたつから出たくないから真似して休んだ妹を騙してアイスを取りに行かせたりとだらだら過ごしていましたが、午後になると暇になって外に出かけます。そこで、まだ学校がある時間のはずなのに外出している雪の妖精みたいな美少女との運命の出会いを果たします。
よい制度があっても、人は同調圧力で人を縛ってしまいます。第2話のクラスでは、ゲームのイベントのために特別休暇を使おうとする女子グループとダンスのイベントのために使おうとする女子グループが分裂していました。主人公のさくらはどちらとも選べず、「特別」に好きなものを持てないでいる自分に悩みます。そんなとき、虫好きのクラスメイトの柊さんが「かわいいよね」と言ってカマキリを見せてきたので、「カマリキコワイ」とおびえてしまいます。しかし、特別な好きを持っている柊さんにだんだん惹かれていきます。
百合回が続きますが、第3話のBL回も直球でエモかったです。悠真は親友の和人から突然、明日特別休暇を使って自転車旅行をしようと誘われます。章タイトルから和人の意図は明らかなのですが、日曜でもできることなのに急に平日に誘われたことに多少とまどわされます。自転車をこぎながら「埼京線のこと、一番強い最強線だと思ってた」とか小学生らしいバカ話をしているのになごみます。この作品は子どもらしい素朴な言葉遊びを効果的に使っています。第2話では「虫だけに」というつまらないダジャレが逆に力強さを持ちます。第1話では「雪やこんこ」という歌が意図せぬ言葉遊びになって大きな救いを与えるのが美しいです。
1話から3話で特別と普通は明確に分けることはできないのではないかという問題提起をさりげなくちりばめ、4,5話で本格的にテーマに踏みこんでいく構成がわかりやすくてよいです。
我々がこの作品から受けとるべきもっとも大きな教訓は、大人も子どもも普通に休みを取るべきだということでしょう。本当に、切実に。