『異形見聞録』(藤白圭 キギノビル)

見てのとおり、キギノビルのイラストが最高で、装丁が目を引きます。
父親が家業を継ぐことになったため急に田舎に引っ越した中学生が2008年に記したブログという設定の作品です。2008年は対象年齢の子どもが生まれる以前で、ブログといういまでは衰退したインターネットサービスを使っているのも、レトロ趣味で恐怖を演出しようという趣向のようです。
電車の優先席のピクトグラムに異様なものを見つける第1話から、SAN値は終わります。第2話は名前を言ってはいけない「アレ」を男たちだけで食べる宴会のエピソードで、主人公は本格的にあっちの世界に参入してしまいます。各エピソードにはブログに掲載された写真という設定のキギノビルのカラーイラストが掲載されています。第2話では、これを読者の目に入れるタイミングを調整することで読者に主人公の正気度を疑わせる構成が効いています。第3話は海で「人魚」に対峙する家業が明らかになる回。この回のイラストは、巨大なものに対する畏敬と恐怖を感じさせるすばらしいものでした。
ただし、現代はいわゆる「因習村」をおもしろがる心理の背後にある差別意識を第一線のホラー作家が批判する時代です。そんな時代にこういう作品を児童向けに提供するのは軽率かもしれません。特にオチの部分は、「多様性とか綺麗事を言ってると殺されるぞ」という分断を煽るメッセージと受け取れるので、危うく感じられます。