『ともだち』(椰月美智子)

初出は毎日小学生新聞2023年8月から20024年1月。ある小学六年生のクラスで起こる出来事が記述されます。
椰月美智子だけあって、大きな事件よりも人物の感情の動きの機微に焦点が当てられています。その姿勢は、章タイトルがすべて「~の気持ち」とされているところにもあらわれています。たとえば、夕方に揺れ動く感情はこう

そもそも夕方は苦手だ。ちょっとあせる気持ちになる。ううん、あせるっていうのとも、なにか違う。心臓のあたりがきゅうっとなって、なつかしいみたいなやさしいみたいな、そのくせ、もう全部イヤみたいな、いてもたってもいられない気持ちになる。

また、大人の思惑を鋭く見抜く子どもの視線もうまく捉えています。たとえば、子ども食堂的なものをやっている大人が「ただのヒマつぶし」「子どもたちのためにやっているわけじゃないのよ」と言い張るのが絶対嘘であることに感づいています。さらに、先生のひいきなど学校で起こる理不尽なことに対する思いを小学生なりの語彙で言語化しようとしているところにも、好感が持てます。椰月美智子らしいよさが溢れている作品でした。
以下、作品の結末に触れます。

これは作品を批判する意図の発言ではないのですが、この仕掛けに感心するのは大人の読者だけのような気もします。住んでいる地域にもよるでしょうが、現代の子どもはもうこれを当たり前のこととして受け入れているので、叙述トリックが意味をなしていないように思われます。