『まほうのアブラカタブレット』(作/如月かずさ 絵/イシヤマアズサ)

いたずら好きのこたろうがタブレットをいじっていると、画面の隅がめくれたようになっているのを発見します。さらにめくっていくとランプのアイコンのアプリが出てきました。それをタップしてみると紫色のヘビのような化け物が現れ、アプリの使い方の説明をしてきました。このアプリで写真を撮り、それを加工すると現実も加工されてしまうというのです。さっそくこたろうはこれを使って様々ないたずらを試みますが……。
現代の子どもにとっては日常のアイテムであるタブレットから非日常につながるというのは、衣装箪笥やら机の引き出しやらが異世界につながるのと同様の仕掛けです。ただこの作品の秀逸なところは、PS Vitaの起動画面のようにめくるという意図的能動的な動作を付け加えたところにあります。PS Vitaはそのようなものだからよいのですが、通常めくれているものは故意にその状態にされているものではありません。それをさらにめくってみることは、のぞきのような後ろめたい行動です。その背徳感があるがゆえに、非日常の世界に足を踏み入れるワクワク感が増幅されます。
アプリの魔法は拡張現実のような新しい技術が反映されているようです。しかし元を正せばこれは、古くから人類が繰り返してきた空想遊びと変わりません。だから、童話としては奇をてらっているわけではない基本に忠実な趣向であるといえます。発端のいたずらの愉快さも報いを受ける場面の怖さも質が高くて、楽しい作品でした。