「ズッコケ三人組の大研究―那須正幹研究読本 (ファイナル) 」(石井直人・宮川健郎)

ズッコケ三人組の大研究ファイナル―那須正幹研究読本 (評論・児童文学の作家たち)

ズッコケ三人組の大研究ファイナル―那須正幹研究読本 (評論・児童文学の作家たち)

 ズッコケ完結から6ヶ月あまり、前々から準備していたにしても、よくこのスピードで刊行できたものだと感心してしまいます。
 石井直人と宮川健郎による最終巻の分析が的を射ています。ズッコケは最終巻にして大塚英志定義するところの「循環型」の物語から「進行型」の物語になったそうです。それまでのズッコケは主人公達が成長せず巻ごとにリセットされる「循環型」でした。ところが「卒業式」は「文化祭」の続きであり、その延長線上に「未来報告」があるというつながりを持ち、「進行型」になりました。これでズッコケ三人組は永遠の小学六年生という呪縛から解放され、新しい歩みを踏み出せることになります。那須正幹がそこまで意図していたかどうかはわかりませんが、今まで停滞していた時間を最終巻で一気に解放するというのは、心憎い演出です。それを「憂鬱な青年期のはじまり」と捉える村中李衣のような存在がいることもまた一興。村中李衣の感慨もあながち間違いではないとわたしは思いますけど。
 他にも見所は多いですが、中でも貴重なのは那須正幹島本理生の対談です。芥川賞候補になった「リトル・バイ・リトル」で「The End of the World」に言及し、児童文学ファンのハートをわしづかみにした彼女ですね。那須正幹が若い作家の長所をよく見ているいいベテラン作家であるということと、島本理生がまれに見る健全な作家であることが伝わってくる、非常になごめる対談です。