「声が聞こえたで始まる七つのミステリー・」(小森香折)

声が聞こえたで始まる七つのミステリー

声が聞こえたで始まる七つのミステリー

 「声が聞こえた」という一文から始まる短編を7作収めている本です。となると星新一の「ノックの音が」が思い出されますが、この本は星新一と比べても見劣りがしないくらいレベルの高い本でした。一作ごとに違った趣向で驚かせてくれます。
 装丁と朝倉めぐみのイラストもおしゃれっぽくていい感じです。ちょっと背伸びしたい小学生にちょうどいいですし、宣伝の仕方によってはもっと上の年齢層にも売れると思います。
 短編なのでネタバレには注意しながら簡単に紹介します。

呼んだのは誰?

 マンションに引っ越してきたばかりの浩樹は、風呂場で不気味な声を聞きます。やがて空き部屋になっている隣の部屋で過去に悲惨な事件があったことを知ります。
 最初はちょっとしたふしぎな美談でご機嫌伺いといったところでしょうか。巻頭を飾るのにふさわしい作品だと思います。

ウは噂のウ

 藤が丘小学校には、タマコという幽霊が出るという噂が広まってました。しかし実はその噂は小学生が流したガセネタだということがわかります。ところがその真相が明かされた時、さらに恐ろしい事態が起こります。
 これはとにかくこわいです。よくあるパターンではあります。でも、最後に絶対起こりそうにない不条理な予言が成就してしまうことが恐怖を倍加させています。

ワンダフル・ライフ

「やっぱりアラシはもらってきた時期がよかったのかしら」
「生後一か月くらい、だったかな?」

 夜中に父さんと母さんがこんな会話をしているのを盗み聞きしてしまったアラシ。考えてみれば自分は弟と似ていません。血がつながっていないと言う事実を知ってしまいますが、アラシはちょっと弱々しい弟を守ろうと頑張ります。
 そうくるか。うまく騙されました。結末を見てから読み返すと伏線はごろごろ出ています。もしかしてタイトルも伏線……?

僕とシャベリータ

 ゴミ捨て場で拾ってきた鉢植えの植物は、会話ができる植物でした。受験勉強で疲れていた忍はすぐこのちょっと毒舌な植物と仲良くなります。しかし受験勉強しか頭にない母親は、忍が夢中になっている植物を目の敵にします。
 すれ違う親子の実態が不思議な植物によって露呈させられるお話です。

もとむ・座敷わらし

 田舎から自宅に帰ってきた一家は、しきりにあることを残念がっていました。実は彼らは、田舎で座敷わらしに会えることを期待していたのですが、かないませんでした。しかし実は……。
 その手はさっきもやったじゃん、二度同じ手には引っかからないよと思ったら、さらなるどんでん返し。自分のことを棚に上げて娘の心配をするお父さんの姿が笑わせてくれます。

メリーゴーラウンドに乗って

 姉から姪っ子のおもりを押しつけられた35歳の売れないイラストレーターの話。メリーゴーラウンドに乗ったら小さい子供に若返ってしまいます。
 叙情的な好短編です。

向こうの国の電車

 智子は駅のホームで、電車が来ていないのに線路に飛び込んだ少女を目撃します。不思議なことに線路に出たとたん彼女の姿は消えてしまいました。智子も同じ時間同じ場所で線路に飛び込んでみると……。
 不条理な暴力にさらされる現実の重苦しさを短い作品の中で描ききっているのはすごいと思います。それと対照的に、むこうの世界で一瞬の間で成立した友情の美しいこと。