「ジョナさん」(片川優子)

ジョナさん

ジョナさん

 現役高校生作家片川優子の2作目です。軽妙な会話文なんかに現役ならではのセンスの良さを感じます。軽い言葉でコーティングして深刻な現実から距離を置こうとするのは今の高校生も変わらないようです。
 高校二年生でそろそろ大学受験を現実に感じ始めている茶子。彼女は親友のトキコから、受験をやめて就職するという決意を聞かされます。自分が真剣に受験に悩んでいるのになんか肩すかしを食らったようで、茶子は少しトキコとぎくしゃくしてしまいます。そんな時、犬の散歩コースで知り合ったかっこいいお兄さんに茶子は一目惚れしてしまいました。名前も聞くこともできず、とりあえず彼のことを「ジョナさん(仮)」と呼ぶことにし、憧れを募らせていきます。
 恋は盲目で、相手にまったく現実性のない幻想をもてるのは若者の特権です。そしてもうひとつ、自分に対して根拠の薄い幻想をもてることも若者の特権です。母親がホステスで色々事情を抱えているトキコと長い間つきあってきた自分はもろもろの偏見とは無縁だと思っていた茶子。しかしジョナさんの正体を知ってしまった時、彼女は引いてしまいました。そしてジョナさんに対する幻想と自分に対する幻想が一気に崩れ去ってしまいます。
 幻想が崩れた先に新しい一歩を踏み出していく結末もさわやかでした。片川優子はまれに見る健全な作風の作家だと思います。