- 作者: 最上一平,岡田千晶
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2005/11
- メディア: 単行本
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最上一平はなんでもないような日常を実にドラマチックに描いてみせる、おそるべき筆力を持った作家です。この作品も山奥の村に生きる小学4年生のさとしの日常を描いた地味な短編集ですが、これが読ませること。一話ずつ紹介します。
まりこさんのあだうち
さとしのかあちゃんのまりこさんが蜂に刺されてしまったので、仕返しに蜂を駆除しに行くお話。言葉で説明するとたったこれだけの内容ですが、カッパやゴーグルを装備して蜂退治に向かう様子がちょっとした非日常として丁寧に描写されており、さとしとともにわくわくしながら読めました。
クモばあさんとわらい虫
嫌みばっかり言って近所で嫌われ者のクモばあさんとの交流の物語。地域のイベントのビアガーデンでクモばあさんは意外な一面を見せます。
この話はクモばあさんのビジュアルが面白い。髪の毛を逆立ててオーラをまとい、まるでスーパーサイヤ人です。
ねじれた足
近所のおじさん政太さんが行方不明になり、さとしは暗い中、大人にまじって捜索活動に加わります。さとしととうちゃんは政太さんを見つけますが、とうちゃんが人を呼んでくるあいださとしは番を任かされます。大人の中で立派に役目を果たした小学生なりの誇らしさを描写したラスト三行が秀逸です。
さとしもジャンパーを着て、話の中にまざりました。
「政太さんの足、だいじょうぶだべが」
さとしは、とうちゃんをまねて、うでをくんできいてみました。
ラッキーセブン
仙台に働きに出ていた近所のお姉さん、夏ちゃんが村へ帰ってきます。夏ちゃんはさとしに「セブン」という綽名を付け、二人は仲良くなります。綽名の由来はさとしの名前。3+4(さとし)でセブンです。
ところがさとしは、夏ちゃんが結婚してしまうことを知り複雑な気持ちになります。
一言で言うなら初恋喪失の物語です。結婚しても夏ちゃんは自分のことをセブンと呼んでくれるだろうというはかない絆を拠り所にしてしまうさとしの心情が、それはせつなく描かれています。