「ぼくがぼくになるまで」(沢村凜)

ぼくがぼくになるまで (エンタティーン倶楽部)

ぼくがぼくになるまで (エンタティーン倶楽部)

 「ヤンのいた島」で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した沢村凛ですね。どうして微妙に名前が変わっているんだろう?

暗かった。
何も見えなかった。
うすぼんやりとした光さえ、見つからない。どこもかしこも、ただ暗いばかりの、まったくの闇だった。

 黒い背景に白文字でかかれたプロローグは、こんな具合に始まっています。真っ暗なところに投げ出された「ぼく」。「ぼく」は記憶も体も持っていません。「ぼく」も読者も、いきなり出口の見えない不条理な状況に投げ出されてしまいます。自分の存在に対する不安。哲学的な苦悩がわかりやすい言葉で語られていて非常に迫力があります。やがて「ぼく」は、自分は心とことばを持っていることに気づきます。「考えることができて、ことばが使えるということは、自分で自分を元気づけられるということなんだ」と考えた「ぼく」は、もっと自分を元気にするために「これから起こることを想像」します。すると「ぼく」はいつの間にか鳥の体を手に入れていて、空を飛んでいました。
 まったく先の読めない話のなので、ネタバレになりそうなことは極力書かないことにします。日本ファンタジーノベル大賞作家というブランドに騙されて読んでください。
 最後まで読んでも疑問点はいくつも残り、いろんな解釈ができそうな作品です。わたしは「抑圧的な姉と頼りない弟」の物語として読みましたが、どうか?しかし、「ぼく」が結局兄の魂を持った人形で、最終的に女の子の姿になるから姉になるというのは複雑すぎてよくわかりません。「ぼくはぼく」だからいいで押し切るのならそれでいいのですが……。