「たにんどんぶり」(あかね るつ)

たにんどんぶり (わくわくライブラリー)

たにんどんぶり (わくわくライブラリー)

 イラストは梶山直美。いまやパスワードシリーズですっかり青い鳥文庫の顔になっていますが、児童書デビューはこの作品らしいです。
 主人公の康平はママの仕事の都合で転校を繰り返しているため、仲のいい友達がいません。ママの仕事は大阪ではマユミ、兵庫ではセイコ、京都ではヒトミと名前がどんどん変わるたぐいのやつです。ある朝ママは、おいしいものを食えと言って、康平に五千円もおこづかいをくれました。康平は喜んでひとりファミレスに向かいますが……。いやな予感がするでしょう?その通り。ママはそのまま蒸発してしまいます。
 ところがこの康平くんがたくましい男の子で、ひとりで生きていくためにアルバイトを探します。ジドウフクシホウとかホゴホウのために子供はアルバイトができないと知ると、今度は募金箱を持って街角に立ちます。康平曰く、「恵まれない子どもが『恵まれない子どもたちに、愛の手を』といって、なにが悪いんや」
 結局ひとりで暮らしていることが周囲にばれて、康平は一時隣のお姉さんに引き取られることになり、それからいろんな人との出会いを経験することになります。
 昔ながらの孤児ものの少女小説のようなストーリー展開で、やたら死人が出たり火事が起きたり扇情的な場面が目立ちます。しかしながら、寂しさを抱えている人たちが寄り添って生きていくさまを感動的に描いています。食べ物が人々のふれあいの媒介になっているのが切実。ちなみにタイトルの「たにんどんぶり」は、オイルサーディンとからしめんたいこと納豆と卵の黄身をごはんにぶっかけたものです。あんまりおいしそうじゃないけど、食べてみたらちがうのでしょうか?