「ある小馬裁判の記」(ジェイムズ・オールドリッジ)

ある小馬裁判の記 (評論社の児童図書館・文学の部屋)

ある小馬裁判の記 (評論社の児童図書館・文学の部屋)

 貧しい移民の少年スコティーと裕福な牧畜業者エイソン・エアの娘ジョジー、この双方が所有権を主張する小馬をめぐる物語です。スコティーの小馬、タフが失踪したところから事件が起きます。その後ジョジーは、野生の馬を捕らえ、ボーと名付けてかわいがります。ところがスコティーは、ボーこそ失踪した自分の馬タフであると主張します。そして一悶着あった後、今度はボーがいなくなってしまいます。エア氏はただちに警察に届けます。依頼されたコリンズ巡査部長はすぐさまスコティーに嫌疑をかけ、彼の牧場を捜索します。ところがそこにも小馬はいません。しかし当の小馬が見つからないまま、スコティーは窃盗の疑いで告発されてしまいます。
 この物語の語り手はキットという少年で、スコティーの弁護を引き受けることになる弁護士の息子です。語り手を当事者にせず距離を置くことで、この物語が法律と正義をめぐる物語であることが強調されます。この弁護士がかっこいいのです。貧乏人からは金を取らないタイプの正義派。警察が最初から偏見を持っていて、金持ちのエア氏にのみ肩入れした捜査をしていること、目撃者の証言も先入観に基づいており信頼性に欠けることを淡々と証明していきます。でも、金持ち側を断罪するだけに終わらず、双方が偏見を少しずつ捨て歩み寄りを見せる方向に持って行きます。
 「貧乏な少年」対「金持ちの大人」というわかりやすい善悪の構図を作り、語り手を部外者にすることによって、この物語は見せ物的になっています。町がスコティー派とエア派にわかれ、衆人環視の法廷で物語が進められる。町の人間はどっちが勝つか賭け事まではじめる始末。事件を見せ物化する手法によって物語は大きな盛り上がりを見せます。硬派なテーマを見事にエンターテインメントとして処理して見せた、めったにない名作といっていいと思います。