「光の街」(浅田宗一郎)

光の街―出逢劇団の人びと (わくわく読み物コレクション)

光の街―出逢劇団の人びと (わくわく読み物コレクション)

 浅田宗一郎の第二作目。泥臭い大阪新世界を舞台に、新世界に住む少年光と、大衆演劇の劇団員の少女よし美さんとの出会いを描いています。
 これはごく普通の少年が旅芸人という異質な存在と出会う話ではありません。そもそも光が住んでいる「品がないし、へんてこなおっちゃんがいっぱいいる」新世界は、読者にとってワンダーゾーンなのです。前作の「さるすべりランナーズ」もそうですが、ここまで社会の底辺に目を向け、それをストレートに表現している作家は今時珍しいと思います。今後も注目していきたい新人です。まだ二作しか読んでいませんが、とりあえずその二作の範囲でわかる浅田宗一郎の特長をまとめてみます。

特長その1 シャイである
さるすべりランナーズ」のヒロインが潤子さんで、今回のヒロインがよし美さん。女の子をファーストネームで呼び捨てにできないシャイさが良いです。潤子さんとよし美さんのキャラにはかなり似通った面があるので、作者の女性の好みが露骨に反映されているのではという疑いももたれます。

特長その2 ギャグとシリアスの配分がうまい。

特長その3 堅実である
彼の作品に登場する恵まれない子供はものすごい勉強家です。「光の街」でも、劇団の子供はみんな大学を目指しています。学歴を軽視していない。がんばって勉強して立身出世しろとしごくまっとうなことをいっています。こういうまっとうすぎることはストレートに主張するのに勇気がいるものです。

 浅田宗一郎の作品は一見古くさい人情ものの貧乏小説に見えます。しかし、格差が明確になりつつある現代には、彼の「とりあえず努力しろ」というまっとうなメッセージは無視できません。もちろんメッセージがまっとうすぎるので、説教臭さが皆無というわけにはいきません。そこで彼の笑いと涙と織り交ぜた絶妙の語り口が力を発揮します。現代に感覚にあったテンポの良い語り口なので、あまり活字に強くない子供でも抵抗なく読めると思います。明らかに内容とミスマッチに思える渡瀬のぞみのイラストも、大衆性を獲得するという意味では正解なのかもしれません。