- 作者: 金原瑞人
- 出版社/メーカー: すばる舎
- 発売日: 2005/12/19
- メディア: 単行本
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すべての中高の学校図書館はこの本を一番目立つところに置いておくべきでしょう。児童文学をだいたい読み尽くして次に何を読んでいいのかわからないという子供にうってつけのブックガイドです。取り上げられている作家名をみればすごさがわかるはず。
片川優子、岩瀬成子、北野勇作、村中李衣、芝田勝茂、乙一、秋山瑞人、舞城王太郎、嶽本野ばら、田口仙年堂、最上一平、保坂和志、寺山修司、宇野亜喜良、長新太、森達也、滝本竜彦、渡瀬草一郎、西尾維新、小川一水、藤野千夜、川島誠、水村美苗、松尾スズキ、大塚英志、本川達雄、穂村弘
さらに100冊のほかに金原瑞人のコラムに紹介されている作家として、サド、マゾッホ、バタイユ。
この本のすごいところはまったく権威におもねっていないところです。だれもが名前だけは知っている文豪の作品はひとつもはいっていません。さらにこのことはセールスポイントとして強調されていませんが、紹介されている作品がすべて日本人によるものだというのもすごい。舶来もの信仰も排されています。翻訳家としての顔も持つ金原瑞人にとってこれは大きな決断だったのではないでしょうか。
この本で紹介されている作品は現代の中高生に実際に支持されているものばかりです。はっきり言って良識ある大人が眉をひそめるたぐいの作品も多いです。この地味な装丁のブックガイドでこのラインアップを載せた金原瑞人の冒険に拍手をおくります。
また、ライトノベルを多く取り上げていることにも注目したいです。ライトノベルは消費のサイクルが驚くほど早いジャンルです。「イリヤの空、UFOの夏」級の名作も急速にだれも読まない古典になりつつあるように感じます。だからこそこのような媒体で紹介し名前を残しておくことには大きな意義があると思います。
さて、ほめまくったところで以下はつっこみどころを書いておきます。わたしも自称読書家のはしくれなので、この手のブックガイドにはけちをつけたくなるのが人情というものです。
愛娘と愛弟子の作品は入れておくんだ。客観的に見ても入っていておかしくない作品だとは思いますが。
ファウスト系作家をこれだけ入れておいてユヤタンだけいないってのはどういうこと?まさかユヤタンを愛するあまりあえてはずしたとか。ユヤタンにとってははずす方が正しい愛情表現なのかも。
「六枚のとんかつ」……。よりによって蘇部健一ですか。このブックガイド、ミステリにはちょっと冷たいかも。蘇部健一みたいな色モノやファウスト系ばかりじゃなくて、もっと正統派の本格ミステリで若者受けしそうなのはなかったんですかね。
天下の国書刊行会から出ている石堂藍の「ファンタジー・ブックガイド」。すばらしい本なんですが、ブックガイドでブックガイドを紹介するというのは斬新です。いまアマゾンで検索したら、あわせて買いたいで「ファンタジー・ブックガイド」と「12歳からの読書案内」が抱き合わせになっていました。
芝田勝茂をとりあげたのはいいのですが、名前が間違っています。柴田じゃなくて芝田です(泣)。
アマゾンの評価について
金原瑞人が自身のサイトでも嘆いていましたが、アマゾンでのこの本の評価はひどいものでした。二名の評者が☆ひとつをつけて酷評していました。見るに見かねてという感じではてなユーザーのjuice78さんや柊ちほさんが☆五つの評価をつけてくれ、現在はバランスがとれています。
興味深いのはこの本をけなした二人の評者がかわりに齋藤孝の著作を薦めていることです。なんかこのお二方はこの本についてなにか言いたいというよりも、齋藤孝の本を布教しに来たような印象が持たれます。そうか、金原瑞人に対峙する存在って齋藤孝だったのか。おそらくこの二人の評者も子供の読書に並々ならぬ関心を持っていらっしゃる方でしょうし、☆五つの評価をつけた方もその分野に造詣の深い方のはずです。この分野には齋藤孝派(仮)対金原瑞人派(仮)のような対立の構図があるのでしょうか。星ひとつか五つの評価しかないという極端さの理由については検証してみる価値がありそうです。
ところで、アマゾンで本の評判を推し量るためには、評者の星の数だけでなくもう一つの手がかりがあります。それは各レビューについている「このレビューが参考になった」の投票結果です。ここでも極端な結果が出ていました。この本をほめていた評者は「このレビューが参考になった」率が高く、けなしていた方は低かったのです。これを見れば(少なくともアマゾンを利用する層において)どちらに分があるかは一目瞭然な気もします。