「ホームランを打ったことのない君に」(長谷川集平)

ホームランを打ったことのない君に

ホームランを打ったことのない君に

 長谷川集平の実に8年ぶりの新作絵本です。
 まずそのビジュアルの美しさに圧倒されます。浮き上がってくるような立体感のある人や物が奥行きのある画面に配置されています。野球の場面では動きのある構成が工夫されていて迫力が感じられます。人物の表情には厳しさと優しさが同居していて、作品世界の雰囲気にマッチしています。
 そしてテーマは野球、ホームラン。ホームランを打ったことのない少年ルイが、同じくホームランを打ったことのない青年仙ちゃんと語らうという内容です。「ぼくは神に選ばれてない気がする」とつぶやくルイに仙ちゃんは「なに言ってんだよ。始める前からあきらめるのかい。夢見るだけにしとくのかい。やってみないとわからんだろう。オレだってまだあきらめてないぞ」と諭します。
 野球選手にはそれぞれ役割分担があるというのは正論ですが、それでもやっぱりホームランは打ってみたい。そう思わせるだけの特別な力がホームランにはあります。自分が神に選ばれた人間か、ホームランを打てる人間かなんて結果が出るまではわかりようのない問題です。だからたとえそれが無駄な努力になる可能性があろうと、一歩ずつ地道に努力していくしかありません。笑っちゃうくらいまっとうすぎるメッセージですが、人生の厳しさをしっかり見据えたこの作品世界では非常に強い説得力を持っています。