「レオンと魔法の人形遣い」(アレン・カーズワイル)

レオンと魔法の人形遣い (上) (創元ブックランド)

レオンと魔法の人形遣い (上) (創元ブックランド)

レオンと魔法の人形遣い (下) (創元ブックランド)

レオンと魔法の人形遣い (下) (創元ブックランド)

 アレン・カーズワイルといえばあの「驚異の発明家の形見函」「形見函と王妃の時計」で、圧倒的な情報量と骨太の人物描写で、物語の快楽の神髄を味わわせてくれた作家です。そんな彼のYA作品がこの「レオンと魔法の人形遣い」。期待せずにはいられません。
 主人公のレオンはマンハッタンのクラシック学院の4年生。レオンは毎日タクシーで学院に通っており、タクシー運転手の出身地をコレクションしています。学院ではなぜか裁縫の授業が重視されています。学院のモットーは「敏捷な精神は敏捷な指に宿る」というもの。しかしレオンは裁縫が苦手で課題のぬいぐるみをなかなか完成されることができず、留年の危機に陥っていました。元凶はレオンの部屋の隣にある製氷器「氷の女王」でした。その騒音のせいでレオンは深刻な睡眠不足に陥っていて、実力を発揮することができないでいたのです。ある日、全国配管工組合第五十一支部プロヴィデンス〉上級技術者が「氷の女王」を修理して、レオンの障害は排除されました。するとレオンの才能が一気に開花し、思いがけない能力を得ることになります。
 この作品の世界は一見我々の住む世界と地続きのようですが、学院の奇妙な教育方針とか、レオンの変な蒐集癖などによって、次第におかしな方向に導かれていきます。そしてどんどんずらされていくうちに物語は思いも寄らぬ方向に進み、下巻になるともうとんでもないことになります。どうとんでもないかというと目次がこんな具合になっています。

大事な話
ペッチャアアアアアアン!
干渉
問題……そして解答
二五二〇
SOV
第二計画
新しい封筒
謝肉祭
馬上槍試合
最終審査
人を結ぶバインダー
十字軍は続く

 わけのわからない単語ばかりです。わけがわかる単語でも、なぜ現代の学園ものに出てくるのか見当もつかないものばかり。なぜ謝肉祭?なぜ馬上槍試合?
 「形見函」でみられたような衒学趣味、どこに連れて行かれるかわからないストーリー展開、エキセントリックな舞台と登場人物。エンターテインメントとしては一級品です。やっぱりカーズワイルは一流のストーリーテラーだ。
 このシリーズは三部作になるそうなので、まだまだ楽しめそうです。第二部のタイトルは「レオンとポテトチップの王様」(仮)。訳者あとがきによると、ポテトチップは燃料になったり、謎を解明する鍵になったり、化学実験の材料になったり、美術品になったりするそうです。まったくわけがわかりません。ポテトチップなんてネタでカーズワイルがどれだけ学をひけらかしてストーリーを広げるのか?第二部の発売が待ちきれません。