「心の宝箱にしまう15のファンタジー」(ジョーン・エイキン)

心の宝箱にしまう15のファンタジー

心の宝箱にしまう15のファンタジー

 エイキンの自選短編集。ベストアルバムといっていいでしょう。
 しめっぽい話ありナンセンスなドタバタありで、稀代のストーリーテラーの至芸を楽しめます。
 想像力を友に孤独に生きる子供の話、「ゆり木馬」や「キンバルス・グリーン」はやりきれない悲しさが胸に迫ってきます。
 ナンセンス系では誕生日プレゼントの詩の内容がすべて現実になってしまう「望んだものすべて」が面白かったです。「毎朝新しい友達がやってくる」とか「歩む道が花でうめつくされますように」といった罪のない願いが現実になるとどんなとんでもない事態になるか。主人公の通う職場のお役所っぷりも皮肉が効いていてよいです。同じ願いをテーマにした話でも、「三つ目の願い」は違った意味で秀逸。おとぎ話によくある三つの願いをいかに有効に使うかというテーマを、もっとも感動的に処理した作品だと思います。
 粒ぞろいの短編の中でも白眉は「神さまの手紙をぬすんだ男」です。郵便配達夫のフレッドは、毎日他人の手紙を届けていますが、自分は手紙をくれるような友達をもっていません。手紙をもらえる人々がうらやましくなったフレッドは、とうとう他人の手紙を盗んでしまいます。この犯罪はすぐにばれてしまい、フレッドの運命はどんどん転落していきます。手紙がもらえないという事象によって、「孤独」というテーマを直截に表現している、見事な短編です。
 そういうわけでこれはとてもいい本です、と、ここで筆を置ければいいのですが、一点だけ見逃せない瑕疵があるのでふれておかなければなりません。なんだこの気色悪いタイトル。あまりにタイトルがあれなので、著者名も見ずに通り過ぎてしまうところでしたよ。エイキンだと思わなければ絶対こんな本は手に取りません。原題の「一握りの黄金」でいいじゃん。エイキンほどの文豪の本にこんなゴテゴテした安っぽいタイトルを付けるとは失礼にもほどがあります。訳者がつけたのか誰がつけたのか知りませんが、いくらこの本がいい本であろうと、「心の箱」とやらにしまうかどうかは読者が判断することです。売り手の側が押しつけることではありません。そういうところを勘違いしてもらったら困るよな。