「初恋は雨のにおい 初恋コレクション5」(岡信子・木暮正夫・編)

初恋は雨のにおい (初恋コレクション)

初恋は雨のにおい (初恋コレクション)

 初恋コレクション最終巻。いつものようにネタバレは気にせず紹介していきます。

「初恋は雨のにおい」(すとうあさえ)

 憧れの人にはふさわしい人がいたのであきらめます。野良犬の飼い主を捜します。「あじさい色の涙」とほとんど同じ。 いや、どっちもいい話なんですけど、似たような話を同じ本に載せるのはアンソロジーとしてバランス悪くないか?

「風の言葉」(名木田恵子

 メロドラマの女王といえばやはりこの人でしょう。扱っているネタが夜逃げとは、やっぱり目の付け所が違います。ベテランの貫禄を感じさせる作品でした。

「1st kissうばったな!」(たからしげる)

 なぜたからしげる?しかもこのタイトルは何?えーと、ここはつっこんでいいところですよね。内容はタラシのイケメン男に引っかかって貞操の危機を迎えるというだけの話なんですが、なんでこんな話をたからしげるが書く必要があるのか疑問です。彼は最近、野球小説を書いてみたり、ポプラ社の「Dreamスマッシュ!」に書いてみたりしているようですが、路線変更を狙っているのでしょうか。わたしは彼には変なSFや変なホラーを書いていてもらいたいです。例えばこの話であれば、「頭のネジがすっかりゆるんでしまった、美少年そっくりのロボットみたいに気味が悪かった」イケメンが実は本当にロボットだったというような超展開をみせるのがたからしげるのあるべき姿だと思うのですが。

「初恋デコレーション」(江端恭子)

 漫画。ヒロインの髪型と表情が面白いです。

あじさい色の涙」(松原由美子

 憧れの人にはふさわしい人がいたのであきらめます。野良猫の飼い主を捜します。「初恋は雨のにおい」とほとんど同じ。いや、どっちもいい話なんですけど、似たような話を同じ本に載せるのはアンソロジーとしてバランス悪くないか?

「いつかバッタに」(石井睦美

 初恋コレクションのベストはこの作品です。なにがすごいといって、徹底して何も起こらないところがすごい。
 中学生になったばかりのまゆこが、たぶん初恋の男の子浩司くんのことを思い出しつつつれづれに物思いにふけるというだけのお話。幼稚園時代の浩司くんの夢はバッタになることで、まゆこも彼に影響されてバッタになることを夢み、毎日神様にお祈りをして過ごします。しかし成長するにつれ人間はバッタにはなれないことがわかってきて、浩司くんへの思いもいつの間にか消えてしまいます。まゆこはその変化を肯定も否定もせずに、変容していく自分を淡々と受け入れます。日々喪失を繰り返し自分が変容していくことの切なさと、それでも変わらないものを信じるたくましさがうたわれている。本格的な思索小説です。

「ウェディングドレスに花をつけて」(あさのあつこ

 シメはここ数年急激に知名度が上がっているあさのあつこです。年上病弱萌えの少年がふられるお話。恋に破れた少年の心情を、「ジョリ」「ぽたり」と微妙な暴力で切なく描いています。さすがにうまさを感じさせます。

初恋コレクション総括

 初恋コレクションというより、失恋コレクションといった方がいいような……。えてして初恋は破れるものといわれますが、それにしても夢を持たせてくれませんね。とくに、年上が相手の場合は極端にうまくいく率が低い。2巻では「ラッキー☆クローバー」「となりの犯人さん」、3巻では「恋なんて知らない」「恋のジャグリング」と、憧れのお兄さんに年相応の恋人がいることがわかって少女が失恋し、同じようなパターンの話が続けて掲載されていることなんかを考えると、よっぽど年の差カップルは嫌われているように思います。悪く言えば保守的。
 こういったアンソロジーを少女向けに編むということは、編者の意図にかかわらず「恋愛」という制度に関するあるメッセージを送るという、政治的な意味を持ってしまいます。そういう視点で考えると、このアンソロジーは保守的すぎます。せっかく恋愛をテーマにしたアンソロジーを編むのだから、もっと冒険があってもよかったような気がします。いい意味でも悪い意味でも、やらかした感がある作品が少なかったのが不満です。そういう意味で評価できるのは、「魔女にハートをねらわれた!」と「氷の恋人」くらいか。
 全体としてみると以上のような不満が残りますが、一作一作のレベルは高く、非常に読み応えのあるアンソロジーでした。