「だれか、ふつうを教えてくれ!」(倉本智明)

だれか、ふつうを教えてくれ! (よりみちパン!セ)

だれか、ふつうを教えてくれ! (よりみちパン!セ)

 理論社の「よりみちパン!セ」に障害学の倉本智明が登場しました。当事者の直截な言葉に重みを感じます。第一章では、弱視である倉本智明が少年時代に仲間たちと変則ルールをつくって野球をしたエピソードが語られます。一見「共生」が実現された美談のように見えるこの事例を彼は「たのしいものではなかった」と振り返り、全肯定はしません。「健常者」の側は善意から変則ルールを提案したのだから、それを当事者に否定されると強烈な衝撃を与えられます。もちろん倉本智明はただ直感的に「たのしいものではなかった」と言っているわけではなく、なぜ楽しくなかったのかを冷静に分析しています。彼の主張は「よりみちパン!セ」の読者にとっていい考える材料になったはずです。
 わたしが一番考えされられた部分を引用します。

バリアフリーのための設備の設置や改築なら、それはお金の負担というかたちをとりますし、直接の人間関係であれば、時に自分を抑えて相手とのあいだに妥協点を模索することが求められます。文字通りの意味でも、比喩的な意味でも、「共生」は決して「タダ」ではすまない、ということです。

 口先できれい事を言うことならいくらでもできます。でも、「じゃあおまえはどれだけの犠牲を払えるのか」と迫られると即答はできません。中学生レベルの読書感想文であれば、末尾を「わたしたちはこの問題についてもっと考えなければならないと思いました。」と結んでおけばすまされますが、この本はその先を要求しています。