「トールキンとC・S・ルイス」(本多英明)

 映画の便乗という面はおおいにあるのでしょうが、こういうかための本が再刊され書店の目立つところに平積みされているのはうれしいことです。
 評伝というより物語といった方がこの本にはふさわしいでしょう。「序」では「ニグルの木の葉」を取り上げ、トールキンをニグル、ルイスをパリッシュになぞらえてみせ、ふたりの人生を虚構化します。
 ビルボの物語が「行きて帰りし物語」だったのに対して、なぜフロドの物語は帰るところで終われなかったのか。こんな視点から故郷喪失者としてのトールキンの物語が紡がれていきます。一方で、無神論からキリスト教に改宗したルイスは、トールキンとは別の道を進むことになります。本多英明はふたりの道の違いをこのようにまとめています。

思えばエアレンディルの航海と、おそらくそれからヒントを得たと思われるリーピチープのアスランの国への航海には、二つの物語の形式、テーマ、創作態度の相違が集約されて表れていると言えよう。神話的世界の構図の中ですべての中つ国の者たちの罪を負って旅立つエアレンディルと、ひたすら至福の地を求め、湾曲していない世界をゆくリーピチープ。それはあたかも二人の作家がこのあとたどっていった道すじが違うことを表しているかのようだ。