- 作者: 森絵都
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/08/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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それまでぞんざいに扱われていたレイジを早い時点でクローズアップしているのがうまいです。彼ははじめは謙虚にブービー賞を狙っていましたが、守谷という選手に影を踏まれたことを根に持って、目標を「打倒守谷」に変更します。この後レイジの出番はほとんどありません。しかし章末の順位を見るだけで読者はレイジの物語を好きなように想像し楽しむことができます。この楽しみ方はレイジに限ったことではなく、すべての選手に応用できます。限られた分量の中で最大限語るべきことを語れるすばらしい省エネ作劇法です。
順当な活躍を見せる知季と飛沫、意外な健闘を見せるピンキー山田、絶不調の要一、そして彼らに関わった脇役達。見所はいくらでもありますが、やはり一番光っていたのは要一です。
スポ根の王道は父と息子の物語。要一と父富士谷コーチのエピソードは一番の泣かせどころです。コーチとしてすべての選手に平等に振る舞い、息子を特別扱いすることのなかった父。そんな彼が息子の最大のピンチになりふり構わずどなる場面は涙なしには読めません。しかも、その父と子の連帯の理由が、親子二代にわたる非モテの呪いであることがまた泣かせます。要一はとうとう最後までダメ人間キャラになってしまいました。
さて、ラストはあまりにあまりな大団円で、思わず本を壁に投げつけようとしてしまいました。しかしながら、妥協することなくご都合主義すぎるハッピーエンドを提供し、作品を一級の娯楽作品に仕上げた森絵都の姿勢はすばらしいです。一級の娯楽小説でした。