「本朝奇談 天狗童子」(佐藤さとる)

天狗童子―本朝奇談(にほんふしぎばなし)

天狗童子―本朝奇談(にほんふしぎばなし)

 佐藤さとるの新作、しかも村上豊がイラスト。これは仏壇に供えなくてはならないくらいありがたい新作です。できることなら仏壇に供えたまま読まずに放置しておきたい。いきなりひどいことをいってしまいましたが、「あかんぼ大将」の完結編を読んで読まなかったことにしている方ならこの気持ちがわかっていただけると思います。しかしうれしいことに、そんな懸念は杞憂に終わりました。
 舞台は戦国時代。大天狗は竹笛の名人与平に笛の技術を仕込んでもらおうとひとりの子天狗を預けます。名前は九郎丸。与平は九郎丸に情が移ってしまい、九郎丸を人間に戻すために天狗にとって大切なカラス蓑を焼いてしまいます。
 天狗の宝物を破損したために与平は処刑になるかどうかという物騒な展開になります。ところが作品世界にはなんともゆったりとした空気が流れています。ベテラン作家ならではの風情豊かな描写は読ませます。
 まぎれもなくこの本は傑作です。だけどそれでも「佐藤さとる」という看板がついていると物足りなく感じてしまうのも事実です。だいぶ昔に書かれた前半部分と最近になって加筆修正した後半部分では、どうしても後半の方が質が劣るように感じられます。物語の展開に佐藤さとるらしいダイナミックさが欠けていて、後半の意外な展開は余分なものにしか思えませんでした。一度伝説をつくってしまった作家に対しては要求するものがとてつもなく大きくなってしまいますから、こう感じてしまうのは仕方がないのかもしれませんが。