「軽装版」論争勃発、がんばれ石崎洋司!

 珍しく児童文学界で本格的な文学論争が巻き起こりそうです。
 ことの発端は日本児童文学者協会の機関誌「日本児童文学」の2006年5・6月号において「軽装版は花ざかり」という特集が組まれたことでした。その特集が「『売れてるものは、ちょっといじっとけ』みたいなノリ」の浅薄な内容だったことに石崎洋司が立腹し、なんと協会の公式サイトで批判を展開しました。すでに児童文学作家のサイトや掲示板でいくつかの反応が起こっています。
 石崎洋司はこう述懐しています。

80年代の前半に編集に携わっていたので、当時、「ズッコケ三人組」シリーズがどんなふうにいわれてたかを、とりあえず目撃していたのですよ。あのときは、批判する側が圧倒的に多かった。でも、結局、子ども読者が勝った(買った)。

 ようするに「純文学は偉くてエンタメは下等、売れてる本はけしからん」的な昔からある価値観で最近の文庫書き下ろしのエンタメ作品が低く見られている現状に憤っているようです。残念なことにズッケコシリーズの受容を経てもなお学習しない大人が多いのが現状です。子供に本を手渡す立場にいる人間、作家や親、教員、図書館員、書店員らがそういう考え方で子供に本を与えているとすれば、健全な状況とはいえません。「おまえが好きな本は下等な本だ」というメッセージを子供に伝えていて、本の好きな子供が増えるわけがありません。
 児童文学は「商品」なのか「文化財」なのか。児童書文庫の人気は石崎洋司の主張のように読書好きの人間を増やす効果を持っているのか。様々な問題提起がなされています。本丸である協会の公式サイトの掲示板が非公開なので、現在どんなやりとりが起こっているのがわからないのが残念です。ぜひ石崎洋司に協会の情報ネットワーク部部長権限で掲示板を公開してもらいたいです。そしてこの論争の理想的な解決は、やはり論争の成果をふまえ「日本児童文学」誌上で再特集を組むことでしょう。その際は作家や評論家、編集の意見だけでなく、書店員や図書館員、教員、なにより一番の当事者である子供の読者など、様々な立場からの声が聞ける内容にしてもらいたいと思います。わたしがこの特集で一番不満だったのは、具体的な作品の内容に踏み込む評論がなかったことです。特に「妖界ナビ・ルナ」に対する言及がなかったことはわたしも不可解に思いました。今一番人気のある「ナビ・ルナ」の内容、子供がどのように受容しているのか、こういったことこそ児童文学に関心を持つ人間がもっとも知りたいテーマのはずです。個別の作品に対する詳細な分析も待たれます。
 しかしここで石崎洋司が真っ先に声を上げてくれたのはうれしいです。彼は押しも押されもせぬ児童書文庫界の旗手のひとりです。立ち上がるべき人が立ち上がってくれたという感じがします。今や文庫書き下ろしを主戦場としそうな若い作家も続々と登場しています。そんな作家達が誇りを持って作品を発表できる環境をつくるという意味でも、石崎洋司には頑張ってもらいたいです。
 ところで、かつてズッコケでさんざん批判されたポプラ社は、今年はこんな先進的な試みをしてバッシングを受けています。

ふしぎの国のアリス (POP WORLD)

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 今回の件とはあまり関係ありませんが、この本について石崎洋司がどう思っているかも聞いてみたいところです。