「樹上のゆりかご」(荻原規子)

樹上のゆりかご

樹上のゆりかご

 2002年理論社刊。都立の名門進学校を舞台に、なし崩しに生徒会活動に加わることになった少女上田ひろみが、学園祭を巡る事件に巻き込まれるお話。進学校独特のすかしたエリート意識が痛々しくて、非常に懐かしい感じがします。現役の高校生には高校という狭い世界がともすれば世界のすべてに思えてしまうもので、そのなかでせいいっぱい立ち回ろうとする少年少女の姿がすがすがしく思えます。主人公のひろみが前作の「これは王国のかぎ」と同じように、非当事者のスタンスから事件に距離を置いているのも興味深いです。しかし過ぎ去ってみれば学校なんて社会のミニチュアでそんなたいしたものではなく、「名前のない顔のないもの」の脅威も実社会のほうが大きい……なんて大人の意見を言ってみたり。
 で、先月中公から出たノベルス版がこれ。
樹上のゆりかご (C・NOVELSファンタジア)

樹上のゆりかご (C・NOVELSファンタジア)

 おまえ誰?ひろみはそんな美少女じゃないでしょう。彼女はあくまで普通の女の子でないと。それより美形にしてはならないのは夏郎。あれでは彼のウザさが生きてきません。荻原規子は児童文学のラノベ化を語る上でエポックメイキングな存在ですから、こっちの中公版の解釈の方が正しいのでしょうけど。