「透きとおった糸をのばして」(草野たき)

透きとおった糸をのばして (講談社文庫)

透きとおった糸をのばして (講談社文庫)

 草野たきのデビュー作が文庫落ちしました。
 親友だったはずのちなみが好きな男の子が実は自分が好きだったという災難に見舞われてしまった中学二年生の香緒。香緒はちなみとの仲直りを望みますがうまくいかず、ちなみと一緒の部活でも孤立してしまいます。香緒は家庭でも厄介ごとを抱えていました。香緒の両親は海外で働いているため、香緒は大学院生のいとこ知里ちゃんと暮らしていました。そこへ知里ちゃんの高校時代の同級生るう子ちゃんが居候として転がり込むことになりました。るう子ちゃんは別れた男に未練を持っていてストーカーじみた行動をしており、香緒はこちらにも振り回されることになります。
 一度壊れてしまった人間関係は元通り修復できないという残酷な現実を描きつつ、それでも人と人の間は切れない透明な糸でつながっているという希望もうたいあげているさわやかな作品です。テーマをそのまんまタイトルにしているのは野暮ですが、表面的な言葉だけでなくきちんと作中の雰囲気で希望を伝えることに成功しています。デビュー作としてはなかなか。ただ草野たきは一作ごとに確実に成長している作家なので、いまさら一般向けとしてこの本をだすのはどうかという感じはします。「猫の名前」か「ハチミツドロップス」でもよかったのでは?講談社児童文学新人賞は一般向けにもアピールできるブランドになりつつあるので、商業的にはこの冠の付いた作品を出した方がいいのでしょうけど。