「おはなしのピースウォーク 扉を開けて」(日本児童文学者協会 編)

扉を開けて (おはなしのピースウォーク)

扉を開けて (おはなしのピースウォーク)

 日本児童文学者協会創立60周年記念出版「おはなしのピースウォーク」の第二弾です。収録作品は以下の通り。

はじめの発言 古田足日
「死んでもいわない」白川タクト
「扉を開けて」守田美智子
「マルコのサッカーボール」高橋うらら
「新しい憲法のはなし」那須正幹
「原野の火」後藤竜二
「なぐさめの星」きどのりこ
おわりの発言 奥山恵

 「なぐさめの星」はそのメルヘンチックなタイトルに似合わず、死者からの拒絶という重いテーマを扱っています。「死んでもいわない」も同じく殺される側からの拒絶がテーマです。80年生まれの若い作家の作品ですが、アフガンの少女がクラスター爆弾で殺されるまでがリアリスティックに描写されていて読ませます。抵抗の手段として沈黙を選ばざるを得ない状況の厳しさには絶句してしまいます。
 「扉を開けて」と「マルコのサッカーボール」は戦争によって人間関係が断絶させられる様を描いています。戦争指導者は国民に「われわれ」と「われわれでないもの」をわける発想を求めますが、これには無理があります。両作品で描かれているように、立場が違えど友達になることはできるのだし、恋人にだってなることができるからです。楽観的かもしれませんが、この点には希望を持っていいと思います。
 「新しい憲法のはなし」はタイトルと作者名からだいたい見当がつく内容です。憲法が改正され、小学生は毎朝君が代を歌わされ、生徒に人気のある先生は指導力不足の烙印を押され首になる、そんな近未来のお話です。那須正幹一流のブラックジョークなのであははと笑ってすませられればいいはずだったのですが……。この作品で那須正幹はひきこもりが徴兵される未来を予言しましたが、現実はそのななめ上をいっており、ニート徴農とかいうトンデモ政策を提唱する議員が現れてしまいました。作家の想像力も政治家の発想にはかなわないということでしょうか。まったく笑えません。
 「原野の火」は教育の逆コースの時代、偏向教育を行っているとされ弾圧された北海道の武佐中学を舞台とした、ノンフィクションに近いお話です。役人とマスコミ、そして地域住民も巻き込んだ組織的な暴力が戦後も公然と行われていた事実に愕然としてしまいます。
 「今子どもで、いつか子どもでなくなるみなさん」へ向けられた奥山恵のおわりの発言は、戦争を解決する方法を平易な言葉で真摯に語っています。